このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

繚乱〜参

それからというもの、朧月は日々近藤を待ちながら仕事をこなし、近藤は朧月を思いながら自分のやるべき仕事をこなした。
ある程度の仕事が終わり、近藤の懐が温かくなった頃。
真一郎が久々に桜花へ行くと言い出した。
「さて、桜花に使いを頼まなくっちゃねえ…お前も来るだろう?」
いつもの様にと真一郎が使いを呼ぼうとした時。
近藤は自覚なく口を開いていた。
「真一郎、済まないが…朧月を…朧月は、俺に付けてくれないか」
「おや、珍しい。お前がそんな事言うなんてね…良いよ」
お前が、朧月に興味を持ったなら…それも何かの縁だろうし。
真一郎の口振りは、近藤が桜花に頻繁に足を運んでいるのを知っていても、その相手までは推測していないらしく思えた。
真一郎にすれば、朧月の情人を斬ったのは近藤だと知っているのだから、まさか朧月の所に通っているとは考えもしないのだろう。
近藤も、自分が通っているのは朧月だと話していないし、ただ桜花へ行くとしか告げていないのだから真一郎が自分の相手を知らないのは当然だと知っている。
だからこそ、今、朧月をと真一郎に言えるのだ。
「そうと決まれば支度、支度。ほら、お前もちゃんとおし」
楽しげに箪笥を開く真一郎を眺めながら、近藤はとりあえず鏡に向かう。
映るのはきちんと剃られた月代、髭。
整った髷。
江戸へ出て来た日を思い出すと、あれは本当に酷い有り様だと笑ってしまいそうだ。
薄い藤色の無地に袖を通す真一郎を鏡越しに、近藤は今朝洗い終えて箪笥に戻ったばかりの蚊絣に手を伸ばす。
季節はまだ夏。
先日の紺無地も気に入っているのだが、真一郎には「同じ着物を続けて着て桜花に行くなんて駄目だ」と言われてしまうに違いない。
帯を締めながら、近藤は無意識に胸が高鳴るのを、朧月の事を考えてしまうのを、はっきりと自覚していた。
5/16ページ
スキ