繚乱〜参
朝の光が吉原を包む前。
東の空が微かに茜色に染まり始める頃。
他の客よりも早く近藤は桜花を出る。
勿論、近藤より早く出る客もいるだろうが、それでも早い方に入る時間。
見送りに出る朧月の側、まだ眠いのか、目をこする紅葉が寄り添っている。
刀を近藤に手渡しながら、朧月は小さな声で言う。
「また…来て下さいますか…?」
「ああ。必ず」
「…お待ちしています」
寂しそうな、儚いと言う言葉をそのまま表情にした様な朧月に、近藤は軽い口付けを与えると、傍らの紅葉の頭を撫でてから見世を出る。
朧月は紅葉の手を握り締めながらその背中を見送り、そのまま眠そうな紅葉を背負って部屋へ戻った。
もう少し。
皆が目覚め、桜花の朝が始まるまではまだ時間がある。
だったら。
きっとまだ近藤の温もりが残っているだろう布団の中で、しばらく微睡んでいても良いに違いない。
「これで、湯も使いたくないと言ったら…きっと皆驚くのでしょうけど」
本当は、近藤の痕を流してしまいたくない。
ずっと近藤の痕を体に残しておきたい。
朧月はふうと一息溜め息に似た呼吸をすると、紅葉を部屋に送った後で閨に入り込んだ。
「こんなに執着するなんて…初めて」
先刻抜け出したままの布団にもう一度潜り込めば、そこはまだ温かい。
ぎゅうと布団ごとその温もりを抱き締めると、朧月は声に出さず近藤の名を呟いて目を閉じる。
あの頃。
こんなにまであの人に執着していなかった。
愛しいと思ったどこかで、あの人を客だと思った。
なのに今は違う。
ずっとあの人といたい。
ずっとあの人に抱かれていたい。
出来るならずっと側に。
これは、この気持ちは一体何なのだろう。
あの人を想うだけで、こんなにも心が安らいで、苦しくて、優しい。
東の空が微かに茜色に染まり始める頃。
他の客よりも早く近藤は桜花を出る。
勿論、近藤より早く出る客もいるだろうが、それでも早い方に入る時間。
見送りに出る朧月の側、まだ眠いのか、目をこする紅葉が寄り添っている。
刀を近藤に手渡しながら、朧月は小さな声で言う。
「また…来て下さいますか…?」
「ああ。必ず」
「…お待ちしています」
寂しそうな、儚いと言う言葉をそのまま表情にした様な朧月に、近藤は軽い口付けを与えると、傍らの紅葉の頭を撫でてから見世を出る。
朧月は紅葉の手を握り締めながらその背中を見送り、そのまま眠そうな紅葉を背負って部屋へ戻った。
もう少し。
皆が目覚め、桜花の朝が始まるまではまだ時間がある。
だったら。
きっとまだ近藤の温もりが残っているだろう布団の中で、しばらく微睡んでいても良いに違いない。
「これで、湯も使いたくないと言ったら…きっと皆驚くのでしょうけど」
本当は、近藤の痕を流してしまいたくない。
ずっと近藤の痕を体に残しておきたい。
朧月はふうと一息溜め息に似た呼吸をすると、紅葉を部屋に送った後で閨に入り込んだ。
「こんなに執着するなんて…初めて」
先刻抜け出したままの布団にもう一度潜り込めば、そこはまだ温かい。
ぎゅうと布団ごとその温もりを抱き締めると、朧月は声に出さず近藤の名を呟いて目を閉じる。
あの頃。
こんなにまであの人に執着していなかった。
愛しいと思ったどこかで、あの人を客だと思った。
なのに今は違う。
ずっとあの人といたい。
ずっとあの人に抱かれていたい。
出来るならずっと側に。
これは、この気持ちは一体何なのだろう。
あの人を想うだけで、こんなにも心が安らいで、苦しくて、優しい。