このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

繚乱〜弐

部屋に入ると相変わらず座布団と膳が用意されている。
紅葉の笑顔を肴に酒に手を付けていると、程なく紅葉の声が太夫の到着を告げる。
すいと開く襖。
近藤の視線の先には待ちかねていた姿。
「本日のお上り、誠に」
「朧月」
口上を遮る近藤の声。
朧月の伏せた顔が弾かれる様に近藤に向けられる。
「…っ」
刹那。
朧月の体は自然に動き、畳の上を滑る様に歩くと近藤の腕の中に倒れ込む。
「近藤様…近藤様…っ」
近藤の着物を掴んでそれを繰り返す朧月の、細い体を近藤はゆっくりと抱き締める。
さらさらとした髪を撫でる手が徐々に上に上がり、いつしか、まるで子供をあやす様に朧月の頭を撫でる。
「会いたかった…朧月」
呟いた近藤の声に朧月の顔が上がる。
「会えない間、ずっとお前の顔を思い出していた…さ、笑ってくれ」
「笑えと言われても…そう簡単には」
「それもそうだな」
近藤の顔が緩むのを目にした朧月の顔も同じ様に、優しく緩む。
それはまるで互いに想い合っている様に。
その気持ちが今ようやく結ばれた様に。
「私も、近藤様にお会いしたかった…来て下さって、良かった」
朧月がそう言うと、近藤は朧月の頭を引き寄せて軽く口付け、また抱き締める。

その手はずっと、朧月の頭を優しく撫で続けていた。



繚乱〜弐


16/16ページ
スキ