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繚乱〜弐

「あんたの笑い顔、あたしは大好きなんだ。また見られて嬉しいよ」
東雲はそう言うと皐月を連れて部屋を出る。
残された朧月はまだ両手を頬から離さずに紅葉に話しかける。
「私…いつから」
「先日、主様が帰られた後と…先程、主様が窓の外におられた時も」
そう言われてみれば、先刻の近藤は自分を見るなり、自分の目を疑っている様な、何とも言い難い表情を浮かべていた様な気がする。
あれは自分が近藤を見て「笑っていた」からなのだろうか。
朧月は深呼吸をひとつ、頬から手を離すと、何をするともなく窓辺へ歩き、外へ目をやる。
昼日向に吉原を歩くのは暇を持て余した色子か、廓に用がある商人か、茶屋の人間。
人は多く歩いていても、朧月の視線の先、当たり前だがそこにはもう近藤の姿はない。
「近藤様…」
小さく呟く朧月の隣で紅葉が同じ様に外を見ながら言う。
「主様、次はいつお上りになるでしょうね」
無邪気な紅葉に朧月はどこか寂しそうな声音で答える。
「桜花の花代は…月に何度も逗留出来る程安くありません…今月、間を開けずに続けてお上り下さったのが珍しいのですよ」
朧月はそう言うと、紅葉の頭を優しく撫でてから「髪を、頼みます」と鏡の前にすとんと座り込んだ。
鏡に映る自分の顔に、先刻の近藤の表情が重なる。
何故だろう。
自分で「間を開けずにお上り下さったのが珍しい」と現実的に花代を引き合いに出してまで口にしておきながら、心のどこかで紅葉の様に近藤が来る事を待っている。
朧月は自分の奥にそんな矛盾した気持ちがある事に、今、気が付いていた。
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