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繚乱〜弐

朝。
朧月は日が登るよりも早く目を覚まし、隣に眠る近藤を起こさない様に布団から抜け出す。
体に回された腕を抜ける時、少し近藤が身じろぎしたのには気を遣ったが、近藤はまだ夢の中だった。
軽く乱れた緋色の襦袢のまま次の間へ入ると、同じ頃に目を覚ました紅葉が運んできた湯で体を拭く。
目に止まるのは体中に残る情事の赤い痕。
あれから何度互いを求めたのか、語らずとも分かる様だ。
紅葉は手早く朧月の髪を整えると、これも仕事と慣れた手際で湯を片付けにかかる。
次の間から閨への襖を開け放ち、まだ薄暗い部屋の窓を少し開くと、そこには夜明けの空。
朧月は窓辺に座り込んだまま、未だ夢の中にいるのだろう近藤の方を見る。
自分とは違う大きな身体。
男らしい顔立ち。
一見武骨で不器用なのだと思わせる癖に、子供の様な所がある人。
紅葉があれほど懐くのも人柄が良いからだろう。
「本当に…不思議なお人」
そう朧月が呟いたのと、片付けを終えた紅葉が茶を運んできたのは同じ頃だった。


「主様、お目覚めのお時間にございます」
紅葉の声に近藤の目が開く。
「お早うございます、主様」
「お早う紅葉…主様って…前にもそう呼んだ事があったが俺の事か?」
布団の上で体を起こし、紅葉の頭を撫でながら近藤が言うと、紅葉は「はい」と笑う。
「私のお客ですからね。この子がそう呼ぶのは当たり前です」
朧月がそう言いながら近藤の肩に着物をかける。
「そうか…何だか気恥ずかしいな」
近藤はそう言いながら手早く着替え、隣に立つ朧月の腰を引き寄せる。
「近藤様」
「また来る」
短くそれだけを告げて朧月に口付けると、近藤は見世を出る支度を始めた。
紅葉は甲斐甲斐しく近藤の用意を手伝いながら、別れ辛いのか小さな声で話しかけたり笑ったりしている。
朧月は何も言わず見世を出る近藤を見送り、玄関で「またのお上りを」と膝を折る。
形式的な見送りの後、ふと気になった朧月が紅葉に目をやると、近藤が帰るのが余程寂しかったのかしょぼんとしている。
「紅葉」
朧月はそう言うと紅葉に手を差し伸べる。
「行きましょう」
紅葉はその手を取りながら、見上げた朧月の表情に目を丸くしていたが、次の瞬間「はい姐さん」と満面の笑顔を浮かべていた。
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