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繚乱〜弐

朧月が部屋に戻ると、紅葉と近藤はそれまでしていた話を朧月に聞かせ、次には朧月までも巻き込んで楽しそうに話し込んだ。
笑い合う二人とは裏腹に、相変わらず朧月が笑顔を浮かべる事は無かったが、それでも今日はどこか楽しそうな目を二人に向けている。
紅葉も近藤もそれを分かるのだろう、心なしかいつもよりも楽しそうだった。
三人の談笑が一段落付く時には表から「お床入り」の声が聞こえ始めていて、紅葉はそれを耳にすると急いで「床入り」の支度を始める。
「近藤様」
いつもなら紅葉が手を引いて座を立つ朧月が、ばたばたする紅葉を見たからか、一人ですいと立ち上がり、近藤に手を差し伸べる。
近藤はためらわずその手を取ると、支度の終わった紅葉に導かれて朧月の寝間へ向かった。


薄暗い、仄かな桜色の灯が点る部屋の中。
荒い呼吸を落ち着かせた近藤は隣に横たわる朧月に目を向ける。
近藤の腕を枕にして、うつ伏せた朧月の背が少しずつゆっくりと上下すると、朧月の顔が近藤を見る。
乱れた長い髪を近藤の指が整えるとそこには頬にまだ熱を持ち、目がまだ艶を帯びたままの、美しい顔。
「…お前は…美しいな」
髪から頬に近藤の指が動くと、朧月はその手に自分の手を重ね、手のひらを頬に押し当てる。
「朧月」
近藤が体を起こし、そのまま朧月を組み敷くと、朧月は下から近藤の両の頬に手を伸ばす。
紅を引かなくとも紅い唇が動く。
「あなたは、不思議なお人」
「そうか?お前の客と寸分違わない、ただの浪人だが」
「私が…仕事だという事を忘れてしまうなんて…あの時から今までなかったのに」
朧月の言う「あの時」が、その相手の顔が、近藤の中で途端にざわつく。
「…あの男、か」
「え?」
聞き返した朧月の声は、深く長い近藤の口付けに消え、後にはただ執拗なまでに互いを求める濡れた声と熱があった。
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