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繚乱〜弐

互いに何か釈然としない「感情」を胸の奥に押し込めたまま、近藤が桜花廊を訪れたのは最初の夜から五日を数えない頃だった。
「朧月姐さん」
昼に近い時間。
風呂上がりの髪を整える朧月に「お客が入った」と茶屋からの伝言を届けに来た紅葉が声をかけ、その手に持った包みを手渡す。
包み紙には見覚えがある。
「この包み…あの人から?」
「はい。私にも、これを」
おずおずと紅葉が懐から差し出したのは可愛い水色の風鈴が付いた簪。
朧月が手の中の包みを開いてみると、そこには仕上げの丁寧な露草の花簪と、紅葉と揃いの風鈴が付いた簪があった。
朧月は紅葉に「髪を結っておくれ」と声をかけ、包みごと鏡の前に置く。
「ああ、その前に」
朧月は後ろに立つ紅葉を手招くと、紅葉の小さな髪の束に紅葉が大事に仕舞っていた風鈴の付いた簪を差し込んだ。
「…朧月姐さん」
「…良く似合う…折角頂いたものなんだから、飾らないと」
紅葉はえへへと恥ずかしそうに笑うと、櫛を手にして朧月の黒髪を上手に纏め始めた。
鏡越しに紅葉を見ながら朧月は思う。
きっとこの子はあの日からあの人を好きなのだ。
だから貰った簪をあんなに大事に懐に仕舞っていたのだろう。
私があの人に対する態度をまだ定めていないから、紅葉は自分がどう態度に出すかを悩むのかも知れない。
好きとか嫌いとかではなく、あの人を「客」と認めるか認めないかだ。
背中で嬉しそうに簪の風鈴を鳴らし、頬を緩めながら髪を結う小さな紅葉の為にも。
朧月は紅葉の手が仕上げにかかるのを見て、静かに口を開く。
「紅葉…これを、挿して」
後ろ手に渡したのは包みにあった花簪。
「…はい、姐さん」
客からの贈り物を身に付ける。
それは「太夫の客」と太夫自身が認めた証だと、紅葉とて教えられているのだから、朧月の意図を知ったのだろう、声が嬉しさを含む。
朧月はそんな紅葉に反して、やはり少しばかり複雑な気持ちだった。
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