繚乱〜東雲
「ずっと…この簪が似合う様になりたいと思って…」
桂はそう呟いてはたと気付く。
父や兄がいそいそと箱に詰める簪や櫛。それは全て桂が覚えている限りの「憧れの」品々だ。
ずっとその品々の似合う「大人」に、その品々に負けない「人間」になりたかった。
「どんな人、なんだろう」
椿がこの品々にはこの人しかいないと言い切った人。
桂は次の朝を待ちわびて、迷わず椿の留まる旅籠を目指して走っていた。
旅籠に着いて「江戸からのお客人は」と顔馴染みの主に桂が訊ねた瞬間。
「おや、お前さんは確か小間物屋の。あたしを訪ねてくれたんだね?」
ささ、お上がりな。
階段の中ほどで桂を見つけた椿が笑う。
桂は頷くと、素早く草履を脱ぎ、椿の背を追いかけた。
部屋の中に入ると、そこには沢山の反物やら茶器やらが積まれていた。
「あたしは所謂使い走りって奴でね。良い品があるって噂があればどこへでも行くんだよ」
荷物を横目に窓際に腰掛けながら椿が言う。
桂は椿の足元にちょこんと座り込み、椿を見上げて少し焦り気味に口を開く。
「あの、うちの簪や櫛が似合う御仁は、どんな人、なんですか」
「ああ、あの簪…あれはね、花魁にと思ったんだよ」
椿の唇が嬉しそうに動く。
「花魁…」
「凛として、芯が強い。誰もが信頼して頼るし、一度頼られれば親身になる。花魁の風格、って言うんだろうけど、あのお人にはそれがある」
椿の話に桂の頬が熱を持つ。
花魁。
噂に聞く江戸吉原の世界。
そこに君臨する絶対的な存在。
「素敵な女性…なんですね」
桂がそう呟くと、椿は桂に向かって座り直して小さな声で言う。
「女じゃないよ。女の格好をした陰間、男花魁…お前さんと同じさね」
桂はそう呟いてはたと気付く。
父や兄がいそいそと箱に詰める簪や櫛。それは全て桂が覚えている限りの「憧れの」品々だ。
ずっとその品々の似合う「大人」に、その品々に負けない「人間」になりたかった。
「どんな人、なんだろう」
椿がこの品々にはこの人しかいないと言い切った人。
桂は次の朝を待ちわびて、迷わず椿の留まる旅籠を目指して走っていた。
旅籠に着いて「江戸からのお客人は」と顔馴染みの主に桂が訊ねた瞬間。
「おや、お前さんは確か小間物屋の。あたしを訪ねてくれたんだね?」
ささ、お上がりな。
階段の中ほどで桂を見つけた椿が笑う。
桂は頷くと、素早く草履を脱ぎ、椿の背を追いかけた。
部屋の中に入ると、そこには沢山の反物やら茶器やらが積まれていた。
「あたしは所謂使い走りって奴でね。良い品があるって噂があればどこへでも行くんだよ」
荷物を横目に窓際に腰掛けながら椿が言う。
桂は椿の足元にちょこんと座り込み、椿を見上げて少し焦り気味に口を開く。
「あの、うちの簪や櫛が似合う御仁は、どんな人、なんですか」
「ああ、あの簪…あれはね、花魁にと思ったんだよ」
椿の唇が嬉しそうに動く。
「花魁…」
「凛として、芯が強い。誰もが信頼して頼るし、一度頼られれば親身になる。花魁の風格、って言うんだろうけど、あのお人にはそれがある」
椿の話に桂の頬が熱を持つ。
花魁。
噂に聞く江戸吉原の世界。
そこに君臨する絶対的な存在。
「素敵な女性…なんですね」
桂がそう呟くと、椿は桂に向かって座り直して小さな声で言う。
「女じゃないよ。女の格好をした陰間、男花魁…お前さんと同じさね」