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繚乱〜壱

どれほどの時間が経ったろうか、近藤の前に立つ十を越える空の銚子が小さな音を立てて転がった時。
それまで静かだった部屋の外、閉まっていた襖がからりと開く。
そこに呆れた顔で立っていたのは先に太夫と部屋を出た真一郎だった。
その後ろには長い髪を緩く後ろで纏めただけ、無地の着物に桜色の羽織をまとう朧月。
先の座敷の時とは全く印象が違う。
「呆れた…まさか本当に呑んでたとはね」
「…早いな」
「お前達が気になるって、朧月が言うんでね。全く、朝まで逗留する予定だったのに」
座る近藤の側まで大股で近付いて、近藤の羽織を布団代わりに近藤の膝を枕に目を閉じた東雲をちらりと見る。
それから真一郎は近藤の手から今中身を注いだばかりの杯を取り上げて一気に中身を干す。
「さ、帰るよ、近藤」
空の杯を渡されながらそう言われた近藤は、座布団の上に丸くなって猫の様に眠る小さな皐月を起こさない様に気遣いながら、自分の膝を枕に目を閉じた東雲を起こす。
「あら、あたしったらいつの間に…この羽織」
近藤が薄く笑う事で東雲は羽織の持ち主を知る。
そんな東雲に近藤は座を立ちながら口を開く。
「帰るそうだ。皐月は、起こさずにおいてやってくれ」
立ち上がる近藤に羽織をかけながら東雲は頷く。
彼とて禿が可愛いのだから、近藤が言わずともそのまま皐月を眠らせただろう。
廊下を静かに歩き、四人は程なく玄関へたどり着く。
「本日は、有り難うございました」
太夫二人が声を揃え、膝を折る。
「次は朝まで逗留させて貰うよ、朧月。またね」
ひらひらと手を振る真一郎とは反対に、近藤は「武士らしく」頭を下げる。
自分に付き合った東雲に何か声をかけるべきだったのかもしれないと思ったが、いざその時になると何と言うべきかが分からなかった。
となれば、頭を下げるのが一番自分らしい、と近藤は考えたのだ。
そんな客人二人を見送った太夫二人は、目を合わせてから自分の部屋へと戻って行った。
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