繚乱〜東雲
視界が定まらないまま桂は部屋を眺め、毎朝きちんと髪を整えている小さな鏡の前に移動する。
覗き込んだそこに映るのは「女」の様な「男」の自分。
客観的に見ても、自分の顔は女寄りだと思える。
化粧や髪のせいもあるのだが、きちんとすれば桂は周りにいる女達よりも美しい。
櫛を手に髪を整えてからふらふらと部屋を出ると、店の方から賑やかな笑い声がする。
桂がゆっくり覗き込んだそこには、明らかにこの辺りの住人ではないと分かる雰囲気の女性がいた。
「あら可愛らしい。こっちにおいでなさいな」
きりりと紅を引いた唇が、切れ長な目が桂を見て動く。
手招きする手もまるで白磁の様だ。
桂は少し鼓動を早めながら近付いて、兄の横へ座ると「いらっしゃいませ」と頭を下げる。
「まあ、近くで見ると尚可愛らしい…お名前は?」
「桂、と申します」
「あたしは椿。よろしくね」
笑うと猫の様な女性、椿はそう言うと、座を立ちながら桂の両親に言う。
「じゃあ、今お願いしたお品、よろしくお願いしますよ」
「かしこまりました」
椿の所作の優雅さに桂が目を奪われているのに気付いたのか、椿は店を出る前に振り返り、ひらひらと桂に手を振って行った。
「…綺麗な人…」
呆けたまま桂が言うと、桐哉が言う。
「江戸から来られたそうだ。すぐそこの旅籠に泊まられているそうだから…会いたければ行ってみれば良い」
お前のそんな呆けた顔、初めてだな。
桐哉はそう言うと桂の簪を少し挿し直してから両親と恐らく椿の注文だろう櫛や簪を揃え始めた。
それを横目に見ていた桂は桐哉が手にしたある簪を目にした途端、弾かれた様に桐哉に走り寄る。
「これ…この簪は」
「先の方がな、お知り合いに合う簪はこの簪しかない、と強く仰って…ああ、お前もこの簪がずっと好きだったな」
覗き込んだそこに映るのは「女」の様な「男」の自分。
客観的に見ても、自分の顔は女寄りだと思える。
化粧や髪のせいもあるのだが、きちんとすれば桂は周りにいる女達よりも美しい。
櫛を手に髪を整えてからふらふらと部屋を出ると、店の方から賑やかな笑い声がする。
桂がゆっくり覗き込んだそこには、明らかにこの辺りの住人ではないと分かる雰囲気の女性がいた。
「あら可愛らしい。こっちにおいでなさいな」
きりりと紅を引いた唇が、切れ長な目が桂を見て動く。
手招きする手もまるで白磁の様だ。
桂は少し鼓動を早めながら近付いて、兄の横へ座ると「いらっしゃいませ」と頭を下げる。
「まあ、近くで見ると尚可愛らしい…お名前は?」
「桂、と申します」
「あたしは椿。よろしくね」
笑うと猫の様な女性、椿はそう言うと、座を立ちながら桂の両親に言う。
「じゃあ、今お願いしたお品、よろしくお願いしますよ」
「かしこまりました」
椿の所作の優雅さに桂が目を奪われているのに気付いたのか、椿は店を出る前に振り返り、ひらひらと桂に手を振って行った。
「…綺麗な人…」
呆けたまま桂が言うと、桐哉が言う。
「江戸から来られたそうだ。すぐそこの旅籠に泊まられているそうだから…会いたければ行ってみれば良い」
お前のそんな呆けた顔、初めてだな。
桐哉はそう言うと桂の簪を少し挿し直してから両親と恐らく椿の注文だろう櫛や簪を揃え始めた。
それを横目に見ていた桂は桐哉が手にしたある簪を目にした途端、弾かれた様に桐哉に走り寄る。
「これ…この簪は」
「先の方がな、お知り合いに合う簪はこの簪しかない、と強く仰って…ああ、お前もこの簪がずっと好きだったな」