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繚乱〜壱

「良く躾られているんだな」
「桜花の禿だからね」
さ、呑もう。
そう言ってさっさと座に着く真一郎に小さく笑う様に息を吐くと、近藤も真向かいに据えられた膳に着く。
杯を手に酒を二人で酌み交わしながら近藤は小さく呟く。
「俺があの子達位の時は…あそこまでしっかりしていたかな」
「私だって、ああまでじゃなかったさ。桜花は、特別なんだ」
杯を干しながら真一郎が言う。
二人共武家と商家、立場は違えど男子と言う事で置かれる立場は似た様なものなのだ。
「お前は長男だ、苦労も多いだろう」
真一郎の杯に酒を注ぎながら近藤が言う。
「まあね…お前だって、苦労したんじゃないのかい?でなければ、あんな仕事に手を染める事はしないだろう?」
「…俺は…賢い生き方が出来ないだけだ」
「何が賢くて、何が賢くないかは、他人じゃなくて自分が決めるんだよ?それなのにお前が賢くないって決めちまったら、お前の生き方が可哀想だ」
「真一郎…」
「ここの色子達の生き方は賢いのかい?それとも賢くないかい?色子達は、皆、自分で決めた生き方をしてるだけ。きっとそれを賢いか賢くないかなんて考えてもないさ」
空になった銚子を避けながら真一郎はそう言って笑う。
真一郎は母親を亡くして以来店を背負い、かつ人には言えない裏家業に手を染めた父親を見てきた分、何か感じる物が近藤とは違うのだろう、真一郎を見る近藤の目は驚きと尊敬に満ちる。
その時。
「太夫がお見えになりました」
外にいた禿二人が声を揃える。
真一郎と近藤の目が自然と襖に集中した、それを見澄ました様にすいと開く襖。
そこには美しい着物に身を包んだ太夫が二人、部屋の方を向いて座していた。
一人は美しい黒髪を見事に結い上げ、髪に飾られた櫛や簪の朱に合わせた朱い帯に、桜色の、鳳凰が刺繍された着物を身に纏っている。
もう一人は薄い茶の髪を、まるで今結い上げた様に手早く纏め上げ、それでも決して雑には見えない。こちらは紺の帯に水色、鮎が染められた着物。
二人共「桜花の太夫」に相応しい風格と美貌を備えていた。
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