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繚乱〜壱

吉原への道すがら、常に一歩後ろを歩く近藤を無理矢理隣に引っ張りながら真一郎が言う。
「一歩引くのはお前の仕事柄仕方ないと思ってるけど、私はそういうのが嫌なんでね」
「雇い主の息子がそう言うならな」
変わらない他愛ない事を言い合いながら二人は吉原の大門をくぐる。
吉原や中にある数多くの廓についての噂は様々聞いていたが、実際に入るのは初めての近藤と相反する様に、真一郎は周りの遊郭から飛ぶ誘いの声を軽々といなして行く。
「近藤、ほら、もうすぐだよ」
真一郎が指差す方を近藤の目が映す。
そこにあったのは一面春の様な桜色と、立派な看板に彫り込まれた「桜花」の二文字。
「待て、ここは」
飄々と暖簾をくぐろうとした真一郎を捕まえて近藤は小声で言う。
「吉原で桜花を冠する廓…ここは陰間だろう」
「知ってるなら話が早い。私はどうもこっち側でね。お前が嫌なら、どこか別の見世に口を聞いてやるよ?」
「…構わない。俺も、ここに入る」
真一郎は何も言わず悪戯そうに微笑うと改めて桜色の暖簾をくぐる。
そこにいたのはまるで「女」と見間違うばかりに美しい「男」達。
真一郎は格子のそばにたむろする色子達に手を振ると「お待たせを致しました」の声に目を向ける。
九重の旦那よりも若い、それでも真一郎や近藤よりも年を重ねているであろう男が「桜花」の名の入った羽織を身に纏い二人の前に進み出る。
その後ろには恐らく十歳を迎えたかどうかの小さな娘が二人。
この子達も娘に見えるがきっと少年なのだろう。
「お待ちしておりました九重様。さ、二人共、ご案内を」
「はい」
可愛らしい少年禿二人が声を揃え、真一郎と近藤に頭を下げる。
真一郎は慣れない近藤を助けながら廊下を進み、禿二人がすいと開く戸から部屋へ入り込む。
そこは簡素な部屋だったが、襖や小物は贅沢な品だと傍目にも分かる位のしつらえだった。
「太夫はすぐに参ります」
「それまではごゆるりと」
二人が口々に言うと、襖がすいと閉まる。
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