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繚乱〜壱

それから数日後の昼過ぎ。
珍しく真一郎が夜に出歩くと言い始めた事から、近藤と真一郎は言い合いを始めていた。
「だから、私だって出歩きたい時があるんだよ!」
「夜でなくても良いだろう!大体お前は自分の立場を知らなすぎる」
「私の立場なんて分かりやすい呉服屋の若旦那じゃないか!」
「九重の跡取りだ!もう少し考えろ!」
「だからって出歩く事も出来ないんじゃまるで罪人じゃないか!」
「九重の名前の力は伊達じゃないんだぞ。お前に何かあったらどうするんだ!」
「ああもう!先刻茶屋に使いを出して金を落とした所なんだ、折角の上首尾なのに、今更取り消すなんて嫌だよ」
「…茶屋…吉原か」
上首尾と言うなら目当ての太夫を捕まえたのかも知れないし、寧ろそれなら仕方ないとでも言う様に近藤の語勢が落ちる。
今日まで真一郎に付き合って来たが、真一郎には客以外、全く女の影がない。
となれば、吉原に足を踏み入れたくなる事もあって然るべきだろう。
「…そうか、お前も来れば良いんだよ、近藤」
勢いを無くした近藤の前でぽんと手を打つと、真一郎はこれぞ名案と近藤に話す。
「私の身が心配なら、お前も来れば良いんだよ。そしたら私に何かあっても、お前が私を守るんだろうし、何もないならお互いそれで良いだろう?何だ簡単な事じゃないか」
ああすっきりした、と笑う真一郎に近藤が何も言わずにいると、真一郎は踵を返しながら「夕刻に行くからね、ちゃんと付いておいで」と近藤に言い放ち、機嫌良く店へ出て行く。
そんな背中を唖然としながら見送りながら、確かにそれが一番良いだろうと、まるで自分に言い聞かせる様に考えると、近藤はそのまま部屋にごろりと横になる。
夕刻までふらふらと町を歩く事も考えたが、それよりもここで昼寝でもしていた方が真一郎を待たせないだろう。そう思った。
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