繚乱〜東雲
桂の頭の中が一瞬真っ白になる。
目の前に立つ草太の顔は、それまで桂の知っていた「幼なじみ」ではなく「男」のそれだ。
「俺と、夫婦になってくれ」
草太の声に桂ははたと気付く。
草太は知らないのだ。
桂が女の格好をした「男」だと。
知らずに夫婦になりたいと言っているのだ。
「わ…私…」
桂の足が後退る。表情が複雑に変わる。
次の瞬間。
桂は体を翻して境内から走り出していた。
後ろから草太の声が桂を呼んだ気がしたが、振り返る事も、立ち止まる事も出来なかった。
桂はそのまま家へ戻り、部屋へ走り込むとへたり込む。
綺麗に結われていた髪は乱れ、下を向くと美しい簪がぽとりと畳に落ちる。
簪を見つめるとはらはらと涙が落ちる。
「桂?入るぞ」
ゆっくり襖が開いて顔を覗かせたのは、桂の五つ上の兄、桐哉だった。
「…どうかしたのか?」
「兄様…」
「草太と店を出たと聞いていたが…草太に何か」
桂は涙を着物の袖で拭うと、境内で草太に言われた事を包み隠さず話した。
「私も…草太さんの事は好きです…でも、草太さんの好きな私は…私じゃない」
「家族以外は、お前が男だと知らないのだからな…俺もいずれはこういう事があるだろうと思った」
「私はどうしたら良いのでしょう、兄様」
桐哉は少し考えてから桂の髪を軽く整え、落ちたままの簪を拾い上げて挿し直しながら言う。
「お前が男だ、と…皆に知らせる時期が来たのだろうな」
「…でも」
「草太がお前自身を好いているのなら…少なくとも友としては付き合える。俺はそう思う」
後はお前自身が決めなければな。
桐哉はそう言うと桂の頭をぽんぽんと撫でて、部屋を出る。
開いた襖から桐哉を呼ぶ父の声がする。
きっと店が忙しいのだろうとぼんやりと桂は思う。
目の前に立つ草太の顔は、それまで桂の知っていた「幼なじみ」ではなく「男」のそれだ。
「俺と、夫婦になってくれ」
草太の声に桂ははたと気付く。
草太は知らないのだ。
桂が女の格好をした「男」だと。
知らずに夫婦になりたいと言っているのだ。
「わ…私…」
桂の足が後退る。表情が複雑に変わる。
次の瞬間。
桂は体を翻して境内から走り出していた。
後ろから草太の声が桂を呼んだ気がしたが、振り返る事も、立ち止まる事も出来なかった。
桂はそのまま家へ戻り、部屋へ走り込むとへたり込む。
綺麗に結われていた髪は乱れ、下を向くと美しい簪がぽとりと畳に落ちる。
簪を見つめるとはらはらと涙が落ちる。
「桂?入るぞ」
ゆっくり襖が開いて顔を覗かせたのは、桂の五つ上の兄、桐哉だった。
「…どうかしたのか?」
「兄様…」
「草太と店を出たと聞いていたが…草太に何か」
桂は涙を着物の袖で拭うと、境内で草太に言われた事を包み隠さず話した。
「私も…草太さんの事は好きです…でも、草太さんの好きな私は…私じゃない」
「家族以外は、お前が男だと知らないのだからな…俺もいずれはこういう事があるだろうと思った」
「私はどうしたら良いのでしょう、兄様」
桐哉は少し考えてから桂の髪を軽く整え、落ちたままの簪を拾い上げて挿し直しながら言う。
「お前が男だ、と…皆に知らせる時期が来たのだろうな」
「…でも」
「草太がお前自身を好いているのなら…少なくとも友としては付き合える。俺はそう思う」
後はお前自身が決めなければな。
桐哉はそう言うと桂の頭をぽんぽんと撫でて、部屋を出る。
開いた襖から桐哉を呼ぶ父の声がする。
きっと店が忙しいのだろうとぼんやりと桂は思う。