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繚乱〜総次郎

~総次郎~

吉原の仕事が終わってすぐ、俺の元へ文が来た。
大店の旦那からだった。
俺の腕を買いたいと記しただけ、詳しい話など皆無の文だったが、俺は迷わずその文の差出人に会いに江戸へ行くと決めた。
今の仲間や利介が嫌になった訳ではない。
ただ、これ以上ここで人を斬れば、母や兄をごまかせなくなるだろうし、「近衛」という父が守った名前を俺が名乗り、人を斬る事が、二人に嫌な思いをさせてしまうに違いないと思った。
誰も俺を知らない土地ならば。そう考えた。
人を斬るのが好きな訳ではない。
だが俺には剣しかない。剣の道でしか生きる術を知らない。
兄の様に器用なら良かったと思った時もあるが、俺は俺なのだ。
千紗殿が用立ててくれた小さな屋敷にこっそりと戻り、小さな荷物を作ってまたこっそりと出る。
母や兄には向こうで落ち着いたら文を送ろうと思う。
当たり前だが人を斬る仕事をしているとは書かずに。
相手は大店の旦那だ、店の手伝いと書いても嘘にはならないだろう。
旅の道すがら、ふと浮かぶのは先立って「片付けた」盗人に遭ったという相手だ。
どこの見世の誰かなど詳しい素性は聞いていないが、さぞかし辛い思いをしただろうに、それを何一つ、返してやれなかった。
せめて何か、一つだけでも見付けてやりたかったが、盗人が名乗った名前も様々で、岡場所へ出向いても一向に探す手がかりすら見つからなかった。
もしその相手が分かるなら、一言詫びを言うべきだろうか。
恐らくは分かる訳などないのだが。
江戸に着いたら、とりあえず名を変えねばならない。
近衛の名は、これ以上汚して良い名ではないのだから。



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