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繚乱〜総次郎

~桜花~

ええ、盗人が入ったのはわたくしの廓ですわ。
朧月という色子の所から品物を取った盗人は、最初に連れていらした馴染みのお客もはっきりとした身元を知らない方でしたの。
それでもわたくしの大事な子に辛い思いをさせたのです、報いは受けて頂かなくてはいけませんわ。
幸い、盗人は薬屋に馴染みがあると見当が付いておりましたから、番屋にもそうお伝えしましたの。
先日、知らせが来ましたわ。
盗人を始末したと。
ええ、わたくしが「生死は問わない」と申し上げておりましたもの、当然の事と思っておりますわ。
ただ、何も返っては来ませんでしたの、それが可哀想ですわ。
あの子は小さい頃からここで頑張ってくれているんですの、せめて一つでも何か返って来れば、と思っておりましたけれど…返って来ない方が良いのかも知れませんわね。
だって、戻って来た物を見る度にきっとあの子はこの事を思い出すのですものね。
わたくし、あの子の笑顔がとても好きですの。
ですからあの子には笑っていて欲しいのに、この事が辛かったのか、すっかり笑わない子になってしまいましたわ。
ええ、仕事に差し障りはありませんのよ。寧ろ最近はあの子のお客が増えている位。
でもどのお方も、あの子を笑わせてはくれません。
大きな御店の旦那も、若旦那も無理ですの。
ずっと一緒にいるわたくし達ですら、長くあの子の笑顔を見てはいませんわ…寂しい事ですわね。
けれどわたくしね、きっといつか、またあの子を笑わせてくれるお方が訪れると信じておりますの。
今はきっと、ああしてそのお方を待っていなくてはいけない時なのですわ。
わたくしの勘は、良く当たりますのよ。
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