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繚乱〜総次郎

~千紗~

私が町中で総次郎様をお見かけしたのは偶然でございました。
主人の着物を直しに出しておりまして、それを受け取りに出向いた時でございました。
陽も暮れかけておりましたし、総次郎様のお姿も以前と変わっておられましたが一度は夫婦にと言い交わした方、間違いはございません。
以前ならば美しく整えておられた御髪や月代は乱れ、着物も随分汚れてしまわれておいででした。
周りに何やら風体の悪いお方がおられましたのでお声はかけておりません。
ただ、小声で何やら話される総次郎様とその方は、とても恐ろしく思いました。
総次郎様なのに私の存じ上げていた総次郎様ではない様な、そんな事を思いながら私は用向きを済ませました。
着物を手に少しだけ色々見て回っておりましたら、また総次郎様をお見かけ致しました。
ええ、今度はお一人でございましたから、お声をおかけしました。
振り向いた総次郎様は私を見て小さく「千紗殿」と呟かれ、私がお茶にお誘いしましたら少し悩まれてからでございましたがご一緒して下さいました。
そこで私は総次郎様の今のお仕事をお聞きしたのでございます。
「そんな…総次郎様、どうぞその様なお仕事はお辞め下さいまし。総次郎様でしたら他にも」
剣技ならばどこか、道場の指南役とて。
私はそう言って総次郎様にお願いしたのでございます。
ですが総次郎様はどこか暗い目をされて、私に仰ったのでございます。
「もう、既に何人か手にかけた…某には、引き返す事は出来ぬのです」
「総次郎様、総次郎様は人をお斬りになって、それを生業とされて、何とも思われぬのでございますか?総次郎様はその様なお方ではございません」
「千紗殿」
総次郎様の着物にすがりつく私の手を優しく外しながら、総次郎様は仰いました。
「某には、剣しかない…某は、剣でしか生きられぬのです」
私にそう告げられると総次郎様は私の前から去って行かれました。
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