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繚乱〜朧月

「最初から…その為にここへ、来たんでしょうか…」
私がそう言うと桜花姐さんは仄かに笑いながら言う。
「分かりませんわ…ただ、考えてはいたのでしょうね…廓には金がある、と」
私はとりあえず桜花姐さんに数言の言葉を返すと、部屋に戻った。
まだ私の休みは残っているのだ、むやみに見世をうろつくのは他の皆に迷惑になるだろう。
皆が用意してくれた茶と少しの菓子を手に部屋に戻った私は、窓を少し開けて外を眺めながらぼんやりする。
そんな頭で太一さんの事を考えても、胸は痛まない。
辛いとか、寂しいとか、悲しいとか、悔しいとか、そういう感情も浮かばないし、涙も出ない。
ただ、何かぽっかりと穴が開いた様な、大事な事を忘れてしまった様な、そんな感じしかない。
私はただ、吉原の街を行き交う人を眺めながら、何も考えず、漠然と感じる喪失感だけを抱えて時間を消費する。
そして喪失感を理解した瞬間、それは私から笑顔を、人を好きになる感情を取り上げた。
東雲姐さんや桜花姐さんはそんな私をいつも気にしながら、それでも私を甘やかす事をしなかった。
私の休暇は予定より早く終わり、新しい年を迎える頃には以前と変わらない忙しい一日を過ごしていた。
逆に言えば、この時に甘やかされていれば私は色子として、本当の意味で一人前にはなれなかっただろうし、ずっと部屋に閉じこもったかも知れないのだ。
姐さん達はそうならない様に私を引っ張り出してくれたのだと考えると、私は自分を一新する事で姐さん達の気持ちに報いたかった。
もう、優しい姐さん達に心配をかけない様に。
私の事を教訓として、小さな禿達が安心して廓の生活を送る事が出来る様に。
笑顔と感情を忘れた私は、それでも前だけを見るのだと心に決め、年が変わった頃に私の側に来た禿、皐月にも全てを話して聞かせた。
隠す事をしたくなかったし、皐月に同じ事をさせたくなかったからだ。
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