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繚乱〜朧月

太一さんが来た事。
少し体の調子が悪く、太一さんから薬を貰った事。
その薬を飲んでから、起きるまでには一度も目覚めなかった事。
桜花姐さんは何とか思い出しながら話す私を、何も言わず、手を放す事もせず、じっと見ていてくれた。
「そのお客人…身元は確かなお人なのかしらね…」
桜花姐さんはそう呟くと、私に「しばらくは、仕事をお休みなさい。風邪気味、ですものね」と微笑んで、私が頷くのを見定めてから部屋を出た。
私は桜花姐さんの背中を見送ると、手元にあるものから片付けを始める事にした。
着物や帯、簪や櫛。
自分の持ち物は全て覚えている。
どれもお客に貰った物や、自分で選んだ物、姐さん達から貰った物なのだから。
片付けをしている内に私の頭は平静を取り戻し始めた。
無くなっているのは全て比較的最近の、自分で買い揃えた物ばかりだし、着物や帯も新しい物が殆どで、姐さん達から貰った物は全て残されていた。
小箱は折り重なった帯の下にあったのだが、中は空だった。
軽くなった箪笥の引き出しを閉め、桑折を押し込んだ私は空の小箱を手に窓辺に座り込む。
普段と変わらない吉原の町が目に入る。
「…薬」
瞬間、私の手は部屋の屑入れに伸び、間髪入れずに屑入れをひっくり返す。
目にすぐ止まるのはあの薬紙。少しだが薬が残ったまま丸められている。
私はそれを掴むと桜花姐さんを訪ねた。
私の話を聞いた桜花姐さんは、すぐかかりつけの医師を呼び、薬紙を手渡した。
予想通り。
次の日の昼、急いで薬紙に残された薬を調べたのだろう医師が口にしたのは「眠り薬」という言葉だった。
つまり、太一さんは一度私に漢方薬を渡し、薬は怪しくないと思わせた上で眠り薬を私に飲ませ、薬が効いている間に私の部屋を引っ掻き回し、見世を出た、という事になる。
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