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繚乱〜朧月

目覚めたのは部屋が随分明るくなってから。
まだぼんやりする頭の中で「朝」と理解すると、私は布団からだるい体を無理矢理に起こす。
頭がはっきりするに従って見えた景色は「私の知っている私の部屋」ではなかった。
少なくとも昨夜、記憶を無くす眠る前までは、私の「知っている」部屋だったはずだ。
だが、今は違っていた。
棚に仕舞っていたはずの髪飾りや櫛、簪が乱雑にそこかしこにばらまかれ、箪笥はおろか桑折に入れて置いた着物や帯、上着や下駄までも引っ張り出されて散らかり放題。
そして見た目に分かる事。
「無い物が…ある」
小さく呟いた私ははたと気付き、箪笥に駆け寄り引き出しを探る。
いつもならこつりと指に当たるはずの物がない。
「箱が…」
私の頭は何も理解出来ず、足はそのまま乱雑に散らかされた着物を踏んだままでへたり込む。
時を同じくして朝の挨拶に来た新しく入った禿達が部屋を訪れると、その中の一人が顔色を変えて廊下を走る。
程なく私の部屋には廓中の色子が集まる。
勿論、桜花姐さんも。
「これは一体…東雲、椿、皆をとりあえず大部屋へ集めて頂戴」
てきぱきと指示を出す桜花姐さんを、私は虚ろな目で見る。
なぜだろう、こんな時でも桜花姐さんは美しい人だった。
皆が部屋の前からいなくなると、桜花姐さんは私に歩み寄り、そっと私の手を取る。
「朧月、しっかりなさい。あなたが呆けていてはいけないのよ、おわかりでしょう?さ、しっかりと思い出して頂戴」
何が、ここで、昨夜のあなたに起こったのかを。
真剣な桜花姐さんの声に私の頭は昨夜を思い出そうと働き始める。
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