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繚乱〜朧月

そんな生活が続いて、吉原を彩る季節が雪に変わる頃からだろうか。
私が少し体調を崩したのをきっかけに、太一さんは「薬」と言って通りがかりに度々薬包を持ってきてくれる様になった。
廓にはかかりつけの医師がいるのだから構わないと話したのだが「俺が持って来たいだけだから」と言う。
私は太一さんの心遣いを無には出来ず、かと言って薬を返す訳にもいかず、結果、かかりつけの医師に一度薬包を見せてから、という事に自分の頭を落ち着けた。
と言うのも、薬と見せかけた毒を飲まされて、廓や毒から離れられなくなる事もあると耳にしているからだ。
後日、薬包は特に悪い物が入っている訳ではなく、滋養強壮に良い漢方の様な物と分かった。
太一さんは真剣に私の体を気にしてくれていたのだと分かると、私の心はほんの一瞬でも太一さんの薬を疑った事を悔いる気持ちで一杯になった。

「顔色が悪いな…大丈夫か?」
ある日、廓に来るなり太一さんはそう言って私の顔を覗き込む。
事実、少し頭痛がする程度だったが、その日の昼間、恐らく風邪だろうと医師に言われた所だったのだ。
「少し風邪気味で…ごめんなさい、気になるなら誰か…」
「それなら休んでいる方が楽だろう?風邪が流行ると噂に聞いたからちょうど薬が」
懐から太一さんが出したのは、先日と同じ包み。
「漢方だが、無いよりはましだろう?俺の事は良いから、少しお休み」
太一さんはそう言うと私に白湯と薬を渡す。
「…ありがとう、ございます」
私はそのまま薬を飲み横になる。太一さんとぽつぽつ話をしている内、うつらうつらと眠気に襲われた私は、あっさり眠りに落ちた。
太一さんを部屋に残したまま。
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