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繚乱〜朧月

それからの私の生活は、太一さんが来る時を待ちながら、他の客を取るものに変わった。
太一さんは以前と変わらず月に一度は来てくれたが、いつも「もっと通えれば良いのにな」と漏らしながら帰って行く。
私とて同じ気持ちだったが、廓の中で惚れた腫れたを口にする事は出来ず、ただ何も言わず微笑む事しか出来なかった。
それでも廓の皆は私が太一さんに惚れているのを知っていて、一人の色子に「だって、あのお人が来た時のあんたは本当に幸せそうに笑うし、見送る時は寂しいのが分かるんだもの」と言われたが、私に自覚はなかった。
いや、寧ろ自覚がないからこそ「惚れている」のかもしれない。自覚があれば、それは「愛想」だ。
その辺りからだろうか、桜花廊の名が吉原の中でとかく話に上がり始め、新しい客も増えてきた。
普段は女郎屋に行く客も「噂に聞いたから」と訪れる様になり、私達色子は体を売るばかりではなく話術や見世の雰囲気までも身に纏わねばならなくなった。
勿論、見世の色子達はただ美しいだけでここにいる訳ではなく、桜花姐さんの目はその内にある才まで見通したのかと思う程で、桜花廊は瞬く間に吉原でも上等な廓になっていった。
どれだけ客が増えても、私は常に太一さんが来るという茶屋からの知らせを心待ちにしていた。
部屋を持った時から私の客になるにはまず茶屋を通さなくてはならなくなったからで、それでも客が増えるのは「桜花廊」の名前ゆえかもしれないと思った。
そんな評判もあり、贔屓の客も増えた。一日の客の数も増えた。稼ぎも当たり前に増えた。
けれど私にはそんな事よりも太一さんが来る事の方が何倍も嬉しかったのだ。
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