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繚乱〜朧月

「朧月は、旦那を取らんのか?」
東雲姐さんから呼ばれた座敷でいつもの上客に問われる。
私が何も言わずにいると、東雲姐さんが「新造の内に旦那は…ちゃんと水揚げを終わらせなきゃねぇ…」としなを作る。
その頃の私はすっかり初めての客、太一さんに気を取られていた。
そんな話をしてから半年後の水揚げもそれを分かっていた上客の計らいで、太一さんが仕切った。
それなりに金もかかったはずなのだが、水揚げの後で東雲姐さんに聞いた話によると、ほぼ全額を上客が出したらしい。
それでも、私は色子としての最初が太一さんだった事が嬉しかった。
「朧月、あんた、あのお人を旦那にするって聞いたけど…」
支度をする私の側で東雲姐さんが湯呑みを片手に言う。
「はい…太一さんさえ、良いと言ってくれるなら」
「旦那持ちなら部屋も持てるしねぇ…あんたはあっと言う間にあたしに追いついちまう」
「そんな事はありません…東雲姐さんには、どれだけ頑張ったとて追い付ける訳がありません」
だと良いねぇ、と東雲姐さんは笑う。
その笑顔につられて私も笑う。
太一さんが旦那を受けてくれて、桜花姐さんが部屋をくれるのは、そんな何でもない一日から一月経った頃で、季節は何度目かの紅葉が吉原を彩っていた。
部屋を貰った私には、当たり前だが給金も増えていた。
それまでは椿さんに管理して貰っていたのだが、部屋を持った事をきっかけに、私は貰った給金の半分以上を里へ送ると、残りを真新しい箪笥の引き出しの中、東雲姐さんに貰った小箱に貯め始めた。
里から急な用向きの金が必要だと言われても大丈夫な様に。
別れた時にはまだ小さかった弟妹に、辛い思いをさせない様に。
勿論、自分の物も買う為だったが、理由の大半はもう何年も会うどころか送金以外に連絡もしていない家族の為だった。
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