このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

繚乱〜朧月

それから五年。
廓の生活にも慣れた頃、私が遂に「色子」として働く日が来た。
五年の間に伸びた髪を朝から結い、東雲姐さんからお下がりで貰った襦袢と着物に手を通す。
「色が白いと、着物が映えますなぁ」
着付けながら番頭さんが言う。
桜花廊へ来た頃は日焼けしていた肌も、五年、廓の中だけで過ごしたからなのか、すっかり白くなっている。
東雲姐さん曰わく「白い肌は色子の第一条件。その為に色子達は色が白くなる様に工夫しているのに、何もせずに白い肌の私は恵まれている」らしい。
着物と髪が出来上がると、客を取った時に使う「部屋」を教えられ、廓の中を歩き回る。
新造と呼ばれる私の様な見世に出始めの色子は自分の部屋がない。
東雲姐さんの様に位が高くなれば部屋を持てるのだが、その時の私にはまだまだ遠い事だった。
客を取り、一銭でも多く「花代」を稼ぐ。
それを村にいる家族に送れば、たとえ作物が凶作だったとしても食べるに困る事は決してない。
私はその夜、桜色の格子の奥に初めて座り、見世に入る客と色子、見世を覗いて行く男達と女郎を目の当たりにした。
それは本当に別世界で、自分もこの世界に生きるのだと思っただけで、鼓動が早まった。
怖い、のではない。
客が来れば自分に何が起こるのか、自分のすべき「仕事」を全て分かっている上で、私は格子の奥にいる事を楽しんでいたのだ。
まるでこの場所にいる事が当たり前の様に。
それから二日後、私は初めての客を取った。
東雲姐さんの上客が連れて来た若い人だったが、嫌だとは思わなかった。
その時に私を気に入ったのか、その若い人は何日かに一度、廓の外から私に話しかけるだけに吉原を訪れ、月に一度は東雲姐さんの上客に連れられて私の所へ来る様になった。
9/16ページ
スキ