繚乱〜朧月
私の目に迷いがない事を見て取れたのか、お絹さんは「分かったよ」とだけ口にすると、私を門の中へ引き入れた。
町中にあるのは紅。
どこを見ても紅と朱。
目をやる所には必ずと言って良い程にいる美しい女性達。
きょろきょろする私を引っ張るお絹さんの足が止まると、そこには一面に桜色。
今までの紅ではなく、朱でもない。
大きな暖簾は見事な桜色で、桜の花模様が裾に散りばめられている。
「桜…」
「ここが、桜花廊。あんたがこれから働く所だよ」
お絹さんはそう言うと私を見世の中へ連れて行き、番頭らしい男の人に何やら話す。
程なく目の前に現れたのは鮮やかな椿の着物を来た女性だった。
「お帰りなさい。花魁がお待ちですよ」
お絹さんは私を先に上がらせる。必然的に私は女性二人の間に入る事になり、前を歩く人の着物だけを見て先に進んだ。
階段を上がった奥、椿の着物が止まった先。
中からの声に合わせて開いた戸の向こうには、それまでに見たどの女性よりも美しい人がいた。
「お入りなさい」
その声に少しの違和感を覚えながら私はお絹さんに背を押されて部屋へ入り、座り込む。
お絹さんが私の事を話すと、美しい人は柔らかい表情を崩さずに言う。
「ここは、男が男を買う場所…意味は、分かりますか?」
「…分かりません。でも、それが俺のやらなきゃいけない事なら、やります」
「…上等、ですわ。気に入りました」
そう言うと美しい人はさらさらと着物を鳴らして私の前へ来る。
「私は桜花。ようこそ、私の廓へ」
それが私をここで働かせてくれる許可だと直感した私は、無意識に「お世話になります」と美しい人、桜花に頭を下げていた。
町中にあるのは紅。
どこを見ても紅と朱。
目をやる所には必ずと言って良い程にいる美しい女性達。
きょろきょろする私を引っ張るお絹さんの足が止まると、そこには一面に桜色。
今までの紅ではなく、朱でもない。
大きな暖簾は見事な桜色で、桜の花模様が裾に散りばめられている。
「桜…」
「ここが、桜花廊。あんたがこれから働く所だよ」
お絹さんはそう言うと私を見世の中へ連れて行き、番頭らしい男の人に何やら話す。
程なく目の前に現れたのは鮮やかな椿の着物を来た女性だった。
「お帰りなさい。花魁がお待ちですよ」
お絹さんは私を先に上がらせる。必然的に私は女性二人の間に入る事になり、前を歩く人の着物だけを見て先に進んだ。
階段を上がった奥、椿の着物が止まった先。
中からの声に合わせて開いた戸の向こうには、それまでに見たどの女性よりも美しい人がいた。
「お入りなさい」
その声に少しの違和感を覚えながら私はお絹さんに背を押されて部屋へ入り、座り込む。
お絹さんが私の事を話すと、美しい人は柔らかい表情を崩さずに言う。
「ここは、男が男を買う場所…意味は、分かりますか?」
「…分かりません。でも、それが俺のやらなきゃいけない事なら、やります」
「…上等、ですわ。気に入りました」
そう言うと美しい人はさらさらと着物を鳴らして私の前へ来る。
「私は桜花。ようこそ、私の廓へ」
それが私をここで働かせてくれる許可だと直感した私は、無意識に「お世話になります」と美しい人、桜花に頭を下げていた。