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繚乱〜朧月

籠に揺られているうちに眠ってしまったらしく、私はお絹さんの声で目を開いた。
「着いたよ」
お絹さんの肩越しに夕暮れの色。そこに見える沢山の人の波。賑やかな声が耳に入る。
籠から降りた私はその景色に見とれる。
見た事のない人の数。
聞いた事もない音。
「おいで」
お絹さんが伸ばした手を取ると、私達は人波の中へ入る。
夕暮れ時だというのに人が溢れる町。あの村だったら、もう人影さえまばらだろうのに。
こんな沢山の人の中、私が今頼れるのはお絹さんの手だけだ。そう思った私はお絹さんの手を力を込めて握り、一生懸命に前を見る。
ほんの少し、人波に負けそうになる心を出来るだけ、私なりに立て直して。
しばらく歩いただろうか、少し人波が引き、長い道の先でお絹さんの足が止まる。
「ここが、あんたの行き先」
お絹さんの見る先に目をやる。
そこは、今までの場所とは全く違う色と、熱と、賑わいを持っている「別世界」と称するに相応しい場所だった。
「ここは…どこ?」
目の前にある大きな門の迫力に圧されながらぽそりと呟いた私に、目を合わせる様にしゃがみ込んでお絹さんが言う。
その手は私の両腕をしっかりと握りながら。
「ここに入ったら、もうお父にもお母にも会えない。辛くて、嫌になっても逃げる事は出来ない。それでも、行くかい?」
真剣なお絹さんの声に、私も、小さいながらも真剣に答える。
「行く。決めたから」
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