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繚乱〜朧月

村を出て、峠に差し掛かると、私達は茶屋に入った。
峠を越す前に少し休もう、と彼女が言ったからだ。
「あんたの親は…これからあんたがどこへ連れて行かれるかなんて思いもしないんだろうね」
彼女、お絹さんと言うらしい、は茶を手にそう呟いて私を見る。
優しい目はまるで母の様で、私の胸は寂しさに痛んだが、それを隠す様に団子を口にし、もごもごと返事をする。
「どんな所でも、お父達の為だから」
「あたしも、そう思って奉公に出たんだけど…あたしは逃げてしまったからね」
お絹さんは私の手をぎゅっと握る。
「江戸へは連れて行く。着いたらあんたの行き先も教える。嫌なら、別の所を探せば良いんだから」
私にはお絹さんの言う「あんたの行き先」がどこなのか、不安に思う事はなかった。
兄達こそどこで何をして稼いでいるのか分からないのだから。勿論私が行き先を知らないだけで、父母は知っているのだろうし、もしかしたら私の行き先も「どんな所なのか」父母は知っているのかも知れない。
知っていて止めないのなら、私は「そこ」へ行かなくてはいけないのだ。
お絹さんは私と二人分の代金を払うと、すぐ近くにいた籠を呼ぶ。
峠は籠の方が早いからだ。
峠を越え、江戸の近くまで籠に揺られながら、私は始終ぼんやりとしていた。
これから先。
考えない訳ではないし、全く不安がない訳でもない。
でも行くと決めた。
家族の為に。
兄達と同じ様に、遠くから家族を支える為に。
「金があれば…皆がまた一緒に暮らせる時が来る」
そう思った時、私は両手をぎゅっと握り締め、江戸に何が待っていても決して家へは帰るまいと心に決めた。
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