繚乱〜終章
「総次郎様の、兄上様…」
「朧月殿の事は、弟よりの文にて存じ上げております…弟が、大変にお世話になった様で」
「いえ、私の方こそ」
朧月はそう言うと一之進の側へ動き、膳を直してから真っ直ぐに一之進を見直した。
成る程、どことなく近藤に、近衛総次郎という人に似ている。
「で、兄上様が、私にどの様なご用件でございましょう」
「…総次郎から少々頼まれてこちらへ参りました」
まずはこれを。
そう言って一之進が差し出したのは「あの事件」が記された瓦版。
朧月の表情が微かに動いたのを見澄まして、一之進は少し声を落として口を開く。
「朧月殿も承知の事と思いますが、これは、あれがやった事」
「はい…そうだろうとは…感じておりました。吉原には、それと確かめる術がありませんからおぼろげに、ではございましたが」
「総次郎は、度々某共に文を送って来ておりました…それも、朧月殿と知り合ったであろう頃から特に頻繁に」
一之進は瓦版から目を離さずに語り始める。
「あれは、家を出てから一度も文など送って来なかった…それなのに、突然文が参りました」
美しい者と出会った。
俺は、その者と過ごす内、今までの事を母上と兄上に話さねばならないと思った。
「そこには、家を出てからの事が様々綴られて」
そこまで語り、一之進はふと、目の前の湯呑みから湯気が立っている事に気付く。
朧月の手の位置は変わらない。
自分の視界に入らない場所で、話を始めた自分に心遣う。
なるほど、これが総次郎の。
一之進は表情を和らげて茶を口に、一息ついてからまた話を続ける。
「いつかの文には朧月殿を身受けしたいともありました…断られたとも」
「お話を頂いた私は考えた末に、総次郎様の側よりもここでいる方を選びました、それでも、総次郎様は変わらずにいて下さって」
「あいつは、そういう真っ直ぐな男ゆえ」
一之進は「兄」の顔で朧月を見る。
そこにいるのが「男」とは、弟からの文がなければ決して思わないだろう美しい男。
この美しい男を弟が愛した。
「総次郎が頼み事を知らせてきたのは、ひと月程前です」
一之進はそう言うと、膳の上にある菓子皿を畳に置き、皿の代わりに懐から取り出した手のひら程の包みを置いた。
「朧月殿の事は、弟よりの文にて存じ上げております…弟が、大変にお世話になった様で」
「いえ、私の方こそ」
朧月はそう言うと一之進の側へ動き、膳を直してから真っ直ぐに一之進を見直した。
成る程、どことなく近藤に、近衛総次郎という人に似ている。
「で、兄上様が、私にどの様なご用件でございましょう」
「…総次郎から少々頼まれてこちらへ参りました」
まずはこれを。
そう言って一之進が差し出したのは「あの事件」が記された瓦版。
朧月の表情が微かに動いたのを見澄まして、一之進は少し声を落として口を開く。
「朧月殿も承知の事と思いますが、これは、あれがやった事」
「はい…そうだろうとは…感じておりました。吉原には、それと確かめる術がありませんからおぼろげに、ではございましたが」
「総次郎は、度々某共に文を送って来ておりました…それも、朧月殿と知り合ったであろう頃から特に頻繁に」
一之進は瓦版から目を離さずに語り始める。
「あれは、家を出てから一度も文など送って来なかった…それなのに、突然文が参りました」
美しい者と出会った。
俺は、その者と過ごす内、今までの事を母上と兄上に話さねばならないと思った。
「そこには、家を出てからの事が様々綴られて」
そこまで語り、一之進はふと、目の前の湯呑みから湯気が立っている事に気付く。
朧月の手の位置は変わらない。
自分の視界に入らない場所で、話を始めた自分に心遣う。
なるほど、これが総次郎の。
一之進は表情を和らげて茶を口に、一息ついてからまた話を続ける。
「いつかの文には朧月殿を身受けしたいともありました…断られたとも」
「お話を頂いた私は考えた末に、総次郎様の側よりもここでいる方を選びました、それでも、総次郎様は変わらずにいて下さって」
「あいつは、そういう真っ直ぐな男ゆえ」
一之進は「兄」の顔で朧月を見る。
そこにいるのが「男」とは、弟からの文がなければ決して思わないだろう美しい男。
この美しい男を弟が愛した。
「総次郎が頼み事を知らせてきたのは、ひと月程前です」
一之進はそう言うと、膳の上にある菓子皿を畳に置き、皿の代わりに懐から取り出した手のひら程の包みを置いた。