繚乱〜終章
花見が終われば桜花廊にはまた日常が戻る。
小さな新造達は踊りやお作法の稽古に朝から走り回り、色子達は軽く身支度を済ませた者から自然に広間に集まって他愛ない話や花札に興じる。
勿論朧月や東雲も同じ事だ。
皐月がいない退屈を東雲は朧月と桔梗で払拭しているし、桔梗からすれば朧月と東雲の両太夫から色々な事が聞けるのだから勉強にもなる。
そんな普通の毎日を変えたのは、稽古帰りの紅葉と皐月が持ち帰った数枚の瓦版だった。
「一際人だかりが多かった人が何人かいて、皐月とお稽古終わりに遠巻きに見ていたら、持って行けと」
「お代はとお訊ねしましたら、構わないと仰って」
ちょこんと座る末恐ろしい新造二人の前で、色子達は瓦版を代わる代わる眺めては口々に話し始め、広間はすぐざわめきに満たされる。
東雲は何枚かある一枚に手を伸ばし、軽く目を通すとそれを朧月に渡す。
「…殺し、だってさ」
朧月の心臓がその一言に強く打つ。
これはもしかしたら「あの人」がやった事かも知れないと頭の奥で声がする。
朧月はそれを東雲や周りの色子達に悟られぬ様に細心の注意を払いながら瓦版に目を落とす。
そこに記されていたのはまさに「凄惨を極めた」という言葉が相応しい情景。
人数は分かっても、それがどこの誰なのか分からない程に惨殺され、しかも身元が分からない死屍累々。
「酷い話だよ…そんなじゃ、仏さんが浮かばれやしないじゃないか」
ふうと溜め息混じりに東雲が呟きながら違う瓦版に手を伸ばす。
そこには瓦版には珍しく屍の処遇が記されている。
身元が分からない屍はその場所か、奉行所、空いている広場に晒される。
それは所謂「晒し者」ではなく、道行く者達の中に屍の身元を知っている者がいるかも知れないからだ。
「せめて…無縁仏になる方が少なければ良いですね…」
朧月がそう呟くと、東雲も小さく頷いた。
小さな新造達は踊りやお作法の稽古に朝から走り回り、色子達は軽く身支度を済ませた者から自然に広間に集まって他愛ない話や花札に興じる。
勿論朧月や東雲も同じ事だ。
皐月がいない退屈を東雲は朧月と桔梗で払拭しているし、桔梗からすれば朧月と東雲の両太夫から色々な事が聞けるのだから勉強にもなる。
そんな普通の毎日を変えたのは、稽古帰りの紅葉と皐月が持ち帰った数枚の瓦版だった。
「一際人だかりが多かった人が何人かいて、皐月とお稽古終わりに遠巻きに見ていたら、持って行けと」
「お代はとお訊ねしましたら、構わないと仰って」
ちょこんと座る末恐ろしい新造二人の前で、色子達は瓦版を代わる代わる眺めては口々に話し始め、広間はすぐざわめきに満たされる。
東雲は何枚かある一枚に手を伸ばし、軽く目を通すとそれを朧月に渡す。
「…殺し、だってさ」
朧月の心臓がその一言に強く打つ。
これはもしかしたら「あの人」がやった事かも知れないと頭の奥で声がする。
朧月はそれを東雲や周りの色子達に悟られぬ様に細心の注意を払いながら瓦版に目を落とす。
そこに記されていたのはまさに「凄惨を極めた」という言葉が相応しい情景。
人数は分かっても、それがどこの誰なのか分からない程に惨殺され、しかも身元が分からない死屍累々。
「酷い話だよ…そんなじゃ、仏さんが浮かばれやしないじゃないか」
ふうと溜め息混じりに東雲が呟きながら違う瓦版に手を伸ばす。
そこには瓦版には珍しく屍の処遇が記されている。
身元が分からない屍はその場所か、奉行所、空いている広場に晒される。
それは所謂「晒し者」ではなく、道行く者達の中に屍の身元を知っている者がいるかも知れないからだ。
「せめて…無縁仏になる方が少なければ良いですね…」
朧月がそう呟くと、東雲も小さく頷いた。