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繚乱〜終章

それから一週間後の暖かい春の日。
桜花廊は一日だけ休みになった。
その日は桜花が公言した「一日花見」なのだ。
中庭の桜の周りに毛氈を敷き、用意された酒や料理が所狭しと並ぶ。
しかもこの日は全ての色子や太夫が中庭に集まる。
それは桜花や椿、絹も含めての事だ。
「無礼講ですわ、皆、楽しんで頂戴」
桜花の声をきっかけに辺りは賑やかな宴会に包まれる。
「東雲姐さん、一献」
「朧月」
東雲の手にある桜色の杯に酒を満たす朧月に、東雲は静かに言う。
「…ここに近藤の旦那がいれば…あんたはもっと楽しいんだろうね」
「私には桜花の皆といる事が楽しいんです…姐さんといる方が」
「あんたは、もっと贅沢になったって良い子なのにね」
朧月にも酒を注ぎながら東雲は優しく笑う。
ずっと朧月を見守って来た、そして共にいた。
そんな親兄弟よりも強い気持ちは東雲だけではなく朧月にもあるのだろう、東雲が見る限り、無駄のない動き方で酒に慣れない紅葉や皐月、桔梗の為にと茶や菓子をいつの間にか用意している。
「私には、こうして皆で花見が出来る事が贅沢です」
「あたしに言わせれば、あんたがこんな風に笑う事の方が贅沢だけど」
姐さん、と朧月が笑う。
そんな朧月の頭を東雲の手が撫でると「朧月姐さんばっかり」と皐月が割り込む。
それを見て紅葉や桔梗、果ては色子達までもが東雲の周りに集まり始めると「ああもう勘弁しておくれ」と東雲が桜花の後ろに隠れる。
「まあまあ東雲ってば相変わらずの人気者ですわね。さあさ、美味しいお菓子が来ましたわ」
番頭と桜花の連携と差し入れられた菓子で東雲はようやく解放される。
「毎年お疲れ様ですわね、東雲」
「桜花姐さんの助け舟があるから何とかなるんですよ…それが無かったらと思うと」
「あら、わたくしとしてはもう少し助け舟が遅くても良いかしらって思うのだけれど」
「勘弁して下さいな」
東雲が桜花の後ろから隣に座り直すと、いつの間にか近くにいた朧月が二人に杯を差し出した。
「姐さん方」
桜花、東雲と杯を満たすと、朧月は小さな声で言う。
「私を助けて下さって、有り難うございました」
あの日から笑えなかった自分を笑わせたのが近藤だとしても、そんな自分をずっと守ってくれていたのは桜花と東雲。
そして中庭の桜。
改めて朧月は誰よりも二人に、この場所に感謝していた。
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