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繚乱〜終章

紅葉の予言は少なからず当たり、中庭の桜は吉原の飾りが変わる頃から少しずつ蕾を緩め始めた。
そうなれば桜は早い。
桜花廊の皆の話題はいつ花見をするか、に集中した。
「桜花姐さんが決める事なんだから、あんた達はちゃんと仕事しておくれって」
椿は毎日こう言って色子達を持ち場に動かす。
そして必ずその後で桜花を訪ねるのだ。
「皆お花見が待ち遠しいのでしょうね…で、満開はいつ頃になりそうなのかしら?」
「このまま暖かい日が続けば、近いでしょうけど」
「頃合いを見て皆に知らせてあげて頂戴ね。お花見の日は、廓をお休みにするのだから」
「全く、そんな事を考えるお人は、花魁位のものでしょうね」
「あら、だって」
わたくしも、お花見が好きなんですもの。
桜花の笑顔はいつも屈託がない。
それはどんな無理や無茶も「本気で言っている」事を意味している。
だからこそ皆が付いて来るのかも知れない。
端から見れば椿や絹は結構振り回されている様に見えるのだが。
それでも。
「茶屋にも休みだって知らせなきゃ駄目ですから…少し早めにしましょうか」
「あなたにお任せするわ、椿。あなたは何もかもが丁度良い時期を分かる人ですもの」
桜花はそう言うとすいと立ち上がる。
「花魁?」
いつもならここから帳簿やらに目を通し始めるはずなのに、立ち上がるなど桜花の珍しい行動に椿がついそう声をかけると、桜花は戸に手をかけながら言う。
「わたくしも、ちょっと中庭の桜に逢いに行きたくなりましたの。ご一緒して下さるでしょう、椿?」
目の前をすり抜ける艶やかな笑顔に、椿は「当たり前ですよ」とだけ返して、その背中を追いかけた。
中庭の桜はまるで皆の楽しみを知っているかの様に、静かに佇んで咲き誇る時を待っていた。
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