繚乱〜終章
春の前。
梅が咲き、桃が咲き、そして皆が待ち焦がれる桜が咲く。
桜が咲く頃特有のものなのだが、ひとしきり冷え込む時期がある。
大体はこの「花冷え」と呼ばれる時期に風邪を引いたりするのだが、そこは桜花廊、備えは万全だった。
「こう冷えると、桜が咲くのも直ぐですね、姐さん」
まだ客の来ない吉原で、廓が開く前。
夕方の色に空が染まり始めた頃。
毎日の習慣で朧月の髪に櫛を通しながら紅葉が笑う。
その隣には紅葉よりも小さな子。
先日絹が連れ帰った子なのだが、通常なら東雲に任せられるはずなのに、なぜか朧月にと桜花は告げた。
当たり前だが朧月が断るはずもなく、朧月は「桔梗」と名付けられた子に紅葉のする事をまず見覚える様にと教えた。
それが二人の成長には一番早いのだ。
桔梗が見る事で紅葉は改めて慎重に動く。
桔梗の質問に答えるのも、それをきちんと教えるのも紅葉。
朧月の助けを借りずに少しずつ。
それは紅葉が朧月の手から離れる時が近い事を、確かに朧月に報せていた。
「そう言えば」
はたと思い出した様に紅葉が口を開く。
「明後日には吉原の飾りが桜に変わるかもって…そうしたら中庭の桜も直に咲きますね」
「…桜?」
桔梗が首を傾げると、紅葉は飾りが変わる事と、廓の中庭の事を丁寧に説明した。
それを耳にしながら朧月は窓を開く。
少しずつ空が茜から紺に変わる様を目に映しながら、肌寒い空気が朧月の手を滑る。
「…桜が咲いたら…皆でお花見をして…そうしたら」
あなたは独り立ちですね。
そう続く言葉を飲み込むと、朧月は部屋に座る二人に言う。
「では、今宵も宜しくお願いしますね、紅葉、桔梗」
小さな二人が返事を返すのと、相変わらずの東雲と皐月が部屋を訪れたのは同じ位の出来事。
そんないつもと変わらない始まりは、きっと今宵も桜花廊は賑わうのだろう。
誰しもにそう思わせた。
梅が咲き、桃が咲き、そして皆が待ち焦がれる桜が咲く。
桜が咲く頃特有のものなのだが、ひとしきり冷え込む時期がある。
大体はこの「花冷え」と呼ばれる時期に風邪を引いたりするのだが、そこは桜花廊、備えは万全だった。
「こう冷えると、桜が咲くのも直ぐですね、姐さん」
まだ客の来ない吉原で、廓が開く前。
夕方の色に空が染まり始めた頃。
毎日の習慣で朧月の髪に櫛を通しながら紅葉が笑う。
その隣には紅葉よりも小さな子。
先日絹が連れ帰った子なのだが、通常なら東雲に任せられるはずなのに、なぜか朧月にと桜花は告げた。
当たり前だが朧月が断るはずもなく、朧月は「桔梗」と名付けられた子に紅葉のする事をまず見覚える様にと教えた。
それが二人の成長には一番早いのだ。
桔梗が見る事で紅葉は改めて慎重に動く。
桔梗の質問に答えるのも、それをきちんと教えるのも紅葉。
朧月の助けを借りずに少しずつ。
それは紅葉が朧月の手から離れる時が近い事を、確かに朧月に報せていた。
「そう言えば」
はたと思い出した様に紅葉が口を開く。
「明後日には吉原の飾りが桜に変わるかもって…そうしたら中庭の桜も直に咲きますね」
「…桜?」
桔梗が首を傾げると、紅葉は飾りが変わる事と、廓の中庭の事を丁寧に説明した。
それを耳にしながら朧月は窓を開く。
少しずつ空が茜から紺に変わる様を目に映しながら、肌寒い空気が朧月の手を滑る。
「…桜が咲いたら…皆でお花見をして…そうしたら」
あなたは独り立ちですね。
そう続く言葉を飲み込むと、朧月は部屋に座る二人に言う。
「では、今宵も宜しくお願いしますね、紅葉、桔梗」
小さな二人が返事を返すのと、相変わらずの東雲と皐月が部屋を訪れたのは同じ位の出来事。
そんないつもと変わらない始まりは、きっと今宵も桜花廊は賑わうのだろう。
誰しもにそう思わせた。