繚乱〜終章
「廓の掟、というのは」
未だ朧月の中に己の欲を置いたまま、布団の上で近藤は朧月を抱え起こしながら言う。
近藤の足の上、肩に手を回しながら熱い息を大きく吐いてから、朧月はかすれた声を出す。
「…こうして素肌を見せて抱かれる事…あなたを愛していますと口にする事…今の、私がしている事は…っ」
焦れる様に朧月の腰が揺れ、唇が深く重なる。
「…でも、こうせずにはいられなかった…私は、それ程に」
「ああ、俺もだ、朧月」
「なら…もっと、もっと愛して下さいませ…総次郎様」
二人の間から言葉が消え、その後にあったのは吐息だけが満たす空間だった。
布団の中。
互いに素肌のままで睦み合いながら自然と会話が始まる。
「…そういえばお前は、本当の名を覚えているのか?」
「私がここへ来たのは十を迎える前…朧月という名が本当の名の様なものです」
「違いない」
でも、と朧月は上半身を起こして近藤を見る。
「思い出した時には…お教え致しましょう」
「楽しみだな」
なあ朧月。
近藤はそう言うと、体を動かしてまた朧月を組み敷く。
「お前を愛している。心の底から」
「私も」
二人の熱は冷める事などないかの様に、優しい夜は明ける事などないかの様に。
まるで気絶する様に眠りに落ちた二人だったが、まだ日が登る前の薄闇の頃。
「…刻限でございます」
閨の外から小さな声がかかる。
それは昨日の座敷の時。
受け取った包みの奥にあった小さな紙。
そこに書かれていた通りの時間、書かれていた通りの台詞。
間を置いて戸を開いた近藤の前には、髪を結わずに長く垂らしたままの紅葉がいた。
「…姐さんは」
「あのまま寝かせてやってくれ…自然に起きるまで起こさずに」
「…はい、主様」
足音を立てずに玄関まで進むと、紅葉は慣れない手付きで近藤に刀を手渡す。
「有り難う」
「…またのお越しを、お待ちしております…主様」
紅葉は習った通りの文言で近藤に頭を下げる。
そんな紅葉の頭を撫でながら、近藤は優しい笑顔を浮かべると暖簾を潜る。
しんと静まり返った玄関で、紅葉は小さな手を見つめながらそこにいた番頭に呟く。
「刀って…あんなに重い物なんですね」
未だ朧月の中に己の欲を置いたまま、布団の上で近藤は朧月を抱え起こしながら言う。
近藤の足の上、肩に手を回しながら熱い息を大きく吐いてから、朧月はかすれた声を出す。
「…こうして素肌を見せて抱かれる事…あなたを愛していますと口にする事…今の、私がしている事は…っ」
焦れる様に朧月の腰が揺れ、唇が深く重なる。
「…でも、こうせずにはいられなかった…私は、それ程に」
「ああ、俺もだ、朧月」
「なら…もっと、もっと愛して下さいませ…総次郎様」
二人の間から言葉が消え、その後にあったのは吐息だけが満たす空間だった。
布団の中。
互いに素肌のままで睦み合いながら自然と会話が始まる。
「…そういえばお前は、本当の名を覚えているのか?」
「私がここへ来たのは十を迎える前…朧月という名が本当の名の様なものです」
「違いない」
でも、と朧月は上半身を起こして近藤を見る。
「思い出した時には…お教え致しましょう」
「楽しみだな」
なあ朧月。
近藤はそう言うと、体を動かしてまた朧月を組み敷く。
「お前を愛している。心の底から」
「私も」
二人の熱は冷める事などないかの様に、優しい夜は明ける事などないかの様に。
まるで気絶する様に眠りに落ちた二人だったが、まだ日が登る前の薄闇の頃。
「…刻限でございます」
閨の外から小さな声がかかる。
それは昨日の座敷の時。
受け取った包みの奥にあった小さな紙。
そこに書かれていた通りの時間、書かれていた通りの台詞。
間を置いて戸を開いた近藤の前には、髪を結わずに長く垂らしたままの紅葉がいた。
「…姐さんは」
「あのまま寝かせてやってくれ…自然に起きるまで起こさずに」
「…はい、主様」
足音を立てずに玄関まで進むと、紅葉は慣れない手付きで近藤に刀を手渡す。
「有り難う」
「…またのお越しを、お待ちしております…主様」
紅葉は習った通りの文言で近藤に頭を下げる。
そんな紅葉の頭を撫でながら、近藤は優しい笑顔を浮かべると暖簾を潜る。
しんと静まり返った玄関で、紅葉は小さな手を見つめながらそこにいた番頭に呟く。
「刀って…あんなに重い物なんですね」