このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

繚乱〜終章

「廓の掟、というのは」
未だ朧月の中に己の欲を置いたまま、布団の上で近藤は朧月を抱え起こしながら言う。
近藤の足の上、肩に手を回しながら熱い息を大きく吐いてから、朧月はかすれた声を出す。
「…こうして素肌を見せて抱かれる事…あなたを愛していますと口にする事…今の、私がしている事は…っ」
焦れる様に朧月の腰が揺れ、唇が深く重なる。
「…でも、こうせずにはいられなかった…私は、それ程に」
「ああ、俺もだ、朧月」
「なら…もっと、もっと愛して下さいませ…総次郎様」
二人の間から言葉が消え、その後にあったのは吐息だけが満たす空間だった。



布団の中。
互いに素肌のままで睦み合いながら自然と会話が始まる。
「…そういえばお前は、本当の名を覚えているのか?」
「私がここへ来たのは十を迎える前…朧月という名が本当の名の様なものです」
「違いない」
でも、と朧月は上半身を起こして近藤を見る。
「思い出した時には…お教え致しましょう」
「楽しみだな」
なあ朧月。
近藤はそう言うと、体を動かしてまた朧月を組み敷く。
「お前を愛している。心の底から」
「私も」
二人の熱は冷める事などないかの様に、優しい夜は明ける事などないかの様に。
まるで気絶する様に眠りに落ちた二人だったが、まだ日が登る前の薄闇の頃。
「…刻限でございます」
閨の外から小さな声がかかる。
それは昨日の座敷の時。
受け取った包みの奥にあった小さな紙。
そこに書かれていた通りの時間、書かれていた通りの台詞。
間を置いて戸を開いた近藤の前には、髪を結わずに長く垂らしたままの紅葉がいた。
「…姐さんは」
「あのまま寝かせてやってくれ…自然に起きるまで起こさずに」
「…はい、主様」
足音を立てずに玄関まで進むと、紅葉は慣れない手付きで近藤に刀を手渡す。
「有り難う」
「…またのお越しを、お待ちしております…主様」
紅葉は習った通りの文言で近藤に頭を下げる。
そんな紅葉の頭を撫でながら、近藤は優しい笑顔を浮かべると暖簾を潜る。
しんと静まり返った玄関で、紅葉は小さな手を見つめながらそこにいた番頭に呟く。
「刀って…あんなに重い物なんですね」
17/28ページ
スキ