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繚乱〜終章

その後、自らの判断で自らの居場所を決めた朧月の心中は、自分で思うよりも穏やかだった。
ここにいる。
それを次に近藤が訪れたら告げなくてはならない。
朧月にとって、それは辛い事ではない。
恐らく朧月が決めたなら近藤は何も言わないだろうし、なぜ自分の元へ来る事を選ばないのかなどという自己中心的な言い方もしないに違いない。
自信がある訳ではなかったが、朧月に不安はなかった。


その頃。
冬らしく座敷に敷かれた毛氈の上で、相変わらず大福帳と顔を突き合わせていた真一郎は、珍しく父親に呼ばれていた。
表向きは父親が九重屋の主なのだから、その話が店の事であれ別の話であれ、真一郎がその声を無視する事はない。
昼日向、店に隣接する屋敷の中、父親は日当たりの良い部屋にいた。
「何かご用でしょうか」
「ああ、これをな。近藤に」
多少他人行儀な息子にすいと差し出したのは一枚の紙切れ。
真一郎は目を通すなり表情を変える。
「親父様…いえ、元締め。これは余りにも」
「他の組に、それを果たせる腕の者はおらんのだ…」
「だからといって、何も近藤一人に受けさせる事はないでしょう?何人かで束になれば」
「真一郎」
必死だった真一郎の言葉は、その一言と向けられた眼光で止まる。
それほどにこの世界での父の力を思い知る反面、自分はこの人の跡目を継がねばならないのだろうかと迷いも浮かぶ。
だが今それを考え、跡目がどうとかを父と口論する必要はない。
真一郎は意を決してか、次の句を何も告げぬまま、紙切れを懐に無造作に押し込むと父親に頭を下げて部屋を出る。
近藤に告げねばならない。
この不条理な、危ない橋を。
屋敷を歩く真一郎の心中は決して穏やかではなかった。
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