繚乱〜終章
明け方、近藤が帰った後、朧月は廓の中庭にいた。
桜花廓の名の由来は花魁桜花ともう一つ、中庭にある桜の古木に由来している。
廓を建てる予定の地にあった古木を桜花は気に入り、そのまま残すと決め、その桜は廓の奥、小さな中庭に鎮座した。
庭の真ん中にずっしりと根を張り、枝を大きく広げている桜は、冬を迎えて枝ばかりになっている。
朧月はそんな桜の幹に背を預け、枝の隙間から空を見上げていた。
桜花の中庭に面した場所には「桜の時期に昼間だけではなく夜桜も楽しめる様に」と灯りがあるが、派手な灯りは風情に欠けると桜花は最低限の灯りしか設えていない。
そのせいか、この桜は色子達が独りになりたい時に訪れる拠り所の様な存在になっている。
勿論、今朧月がいるのも、そこが朧月の「拠り所」だからだ。
「身請け…か」
小さく呟く。
白い息が桜の枝に触れながら消えていく。
近藤の言葉が頭の中で回る。
嫌ではない。
寧ろ願ってもない申し出だ。
なぜなら自分の気持ちは十分過ぎるほど分かっているから。
でも、なぜだろう、踏み切れない自分もいる。
まず桜花が何と言うだろうか。
それも気になるのだが、この廓を出るという事実がなかなか受け入れられない。
小さい頃、家を、家族を助ける為にと足を踏み入れた廓。
あの日からずっと、自分はここの生活しか知らない。
「私は、ここで育ったんだ…この桜と」
辛い時も、楽しい時も、悲しくなる時だってあった。
でも廓から逃げようとは思わなかった。
側にはいつも優しい東雲が笑っていたし、後から入る色子達も小さな禿達も、皆が朧月を慕ってくれる。
何よりも美しくも強い桜花が見守ってくれた。
「桜花姐さん…」
朧月はそう呟くと、桜に向かい合って、額を幹にあてて目を閉じる。
「私は…どうしたいのか、自分でも分からない」
桜が話す事が出来たなら、今の中途半端な自分に何を告げてくれるだろう。
桜花廓の名の由来は花魁桜花ともう一つ、中庭にある桜の古木に由来している。
廓を建てる予定の地にあった古木を桜花は気に入り、そのまま残すと決め、その桜は廓の奥、小さな中庭に鎮座した。
庭の真ん中にずっしりと根を張り、枝を大きく広げている桜は、冬を迎えて枝ばかりになっている。
朧月はそんな桜の幹に背を預け、枝の隙間から空を見上げていた。
桜花の中庭に面した場所には「桜の時期に昼間だけではなく夜桜も楽しめる様に」と灯りがあるが、派手な灯りは風情に欠けると桜花は最低限の灯りしか設えていない。
そのせいか、この桜は色子達が独りになりたい時に訪れる拠り所の様な存在になっている。
勿論、今朧月がいるのも、そこが朧月の「拠り所」だからだ。
「身請け…か」
小さく呟く。
白い息が桜の枝に触れながら消えていく。
近藤の言葉が頭の中で回る。
嫌ではない。
寧ろ願ってもない申し出だ。
なぜなら自分の気持ちは十分過ぎるほど分かっているから。
でも、なぜだろう、踏み切れない自分もいる。
まず桜花が何と言うだろうか。
それも気になるのだが、この廓を出るという事実がなかなか受け入れられない。
小さい頃、家を、家族を助ける為にと足を踏み入れた廓。
あの日からずっと、自分はここの生活しか知らない。
「私は、ここで育ったんだ…この桜と」
辛い時も、楽しい時も、悲しくなる時だってあった。
でも廓から逃げようとは思わなかった。
側にはいつも優しい東雲が笑っていたし、後から入る色子達も小さな禿達も、皆が朧月を慕ってくれる。
何よりも美しくも強い桜花が見守ってくれた。
「桜花姐さん…」
朧月はそう呟くと、桜に向かい合って、額を幹にあてて目を閉じる。
「私は…どうしたいのか、自分でも分からない」
桜が話す事が出来たなら、今の中途半端な自分に何を告げてくれるだろう。