繚乱〜終章
東雲は懐かしい簪の花飾りを指で触れ、ゆっくりと桜花に向く。
「あたしは…あの時、姐さんが何も聞かずにあたしをここに置いてくれたのが本当に嬉しかった…あの日から、あたしは」
東雲の声が詰まる。
茶色の瞳が涙で潤む。
桜花はそんな東雲の頬に自分の着物の袖を当て、柔らかい笑顔のままでいる。
「あの時言ったでしょう?あなたが自分からここへ来た。それで十分でしたのよ」
「はい、姐さん」
東雲は手の中の簪と櫛をまるで小鳥でも手にしているかの様にゆっくりと、静かに胸に抱き締めた。
「あたしは…この簪の似合う色子になったんでしょうか」
「あらまあ、東雲ってば」
桜花は思いも寄らない東雲の一言に、一際鮮やかな笑顔を浮かべると、そのまま東雲を抱き締める。
「ね、姐さん」
「可笑しな事を言うのですもの…あなたはもう十分、この簪が似合う人よ」
桜花はそう言いながら東雲から体を離し、東雲の手にある簪を東雲の髪に挿す。
色褪せた朱や桃色が、東雲の薄い色の髪に溶ける様に馴染む。
まるでそこが自らの在処の様に。
「良く似合っていてよ?さ、もう少しあたくしに付き合って頂戴。今夜は楽しいわ」
「はい…桜花姐さん」
東雲は残る涙を袖で拭うと、桜花の持つ杯に酒を満たした。
簪の花飾りは、あの日、憧れの眼差しを向けていた小さな子を、ただ見守る様に揺れていた。
「あたしは…あの時、姐さんが何も聞かずにあたしをここに置いてくれたのが本当に嬉しかった…あの日から、あたしは」
東雲の声が詰まる。
茶色の瞳が涙で潤む。
桜花はそんな東雲の頬に自分の着物の袖を当て、柔らかい笑顔のままでいる。
「あの時言ったでしょう?あなたが自分からここへ来た。それで十分でしたのよ」
「はい、姐さん」
東雲は手の中の簪と櫛をまるで小鳥でも手にしているかの様にゆっくりと、静かに胸に抱き締めた。
「あたしは…この簪の似合う色子になったんでしょうか」
「あらまあ、東雲ってば」
桜花は思いも寄らない東雲の一言に、一際鮮やかな笑顔を浮かべると、そのまま東雲を抱き締める。
「ね、姐さん」
「可笑しな事を言うのですもの…あなたはもう十分、この簪が似合う人よ」
桜花はそう言いながら東雲から体を離し、東雲の手にある簪を東雲の髪に挿す。
色褪せた朱や桃色が、東雲の薄い色の髪に溶ける様に馴染む。
まるでそこが自らの在処の様に。
「良く似合っていてよ?さ、もう少しあたくしに付き合って頂戴。今夜は楽しいわ」
「はい…桜花姐さん」
東雲は残る涙を袖で拭うと、桜花の持つ杯に酒を満たした。
簪の花飾りは、あの日、憧れの眼差しを向けていた小さな子を、ただ見守る様に揺れていた。