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繚乱〜東雲

「夜明け前の茜色の事よ。椿が直接わたくしの所へ連れ帰る子は、ここへ来るのを自分から望んだ子ですもの…この子の夜は、今日から明け始めるの。だから、東雲」
「私の、名前…」
おずおずと言う桂に花魁は続ける。
「そうよ。今日からのあなたの名前。改めて、わたくしは桜花。これから、よろしくお願いしますわね」
桜花。
廓と同じ名前。
この人が、この廓の頂点。
桂はふと気付いた様に桜花に問う。
なぜ、自分がここへ来た理由を聞かないのかと。
桜花の返事は至極簡単なものだった。
「あなたは自分からここへ来たのでしょう?理由は、それだけで十分ですわ」
その言葉は桂が桜花への絶対的な信頼を覚えるきっかけになる。ただ、ここにいる自分だけを桜花は受け入れてくれるのだと。
それからの桂は必死だった。
色子の作法は今までの客商売とは全く違う。
桜花の一言で桂の指南役になった椿は、自らの知る術を惜しまず桂に教え込んだ。
勿論、使い走りをしていたとはいえ、椿はこの廓のお職でもあるのだから、勿論自分の「仕事」もあるのだが、その合間は全て桂の為に使われていた。
桂もそれを分かっているのだろう、乾いた砂がみるみる水を吸う様に椿の教えをどんどん自分のものにしていった。
そして二年後、桂は「東雲」と名乗り始めてすぐ客になった大店の若旦那の手で無事、水揚げを終え、名実ともに「桜花廓」の一員となった。
廓の中で「椿に次ぐお職は東雲だろう」と噂される程。
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