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繚乱〜伍

言葉を出す前に朧月の体が動く。
迷う事などない。
自分の心が示すまま、求めるまま。
伸ばした手は近藤へと真っ直ぐに伸び、札が畳に落ちた、次の瞬間。
朧月は座る近藤を真正面から、首もとに両手を回して抱き締めていた。
「朧、月」
突然の事に少々体を傾けながらも、片手に銚子、片手に杯を持つ近藤の手が行き場を失って宙に浮く。
朧月はそんな事を構いもせず、抱き締めた腕に力を込め、近藤の耳元で呟いた。
「嫌です。嫌です…あなたに、会えなくなるのは嫌」
近藤は両手の物を倒れない様に気を遣いながら畳に置き、朧月の体を己の座した足に乗せる様に動かして、その細い体をゆっくり抱き締める。
もしも朧月が嫌がった時には、すぐ手を離す事が出来る様に。
が、朧月は嫌がるではなく、寧ろ近藤に体を任せる様に手を解き、近藤にもたれ掛かる。
「ごめんなさい…私は、あなたにとても酷い事を」
「構わんさ、あれは、お前の矜持から出た言葉だ」
近藤の大きな手が朧月の髪を撫でる。
それが心地良いのか、朧月は近藤の腕の中で呟く。
「あなたに、会いたくて、寂しくて、仕方なかったんです…近藤様」
「俺もだ。何度、ここまで来ようとしたか分からない」
「私はずっと外を見ていました…あなたが、もしかしたら見えるのではないかと思って」
「なら、九重屋をどうにか抜け出してここへ来れば良かったな。そうすればお前の顔だけでも見られたのに」
朧月が顔を上げると、自然と近藤と目が合う。
男らしい、でも優しい眼差しが朧月を見つめる。
途端に高鳴る鼓動。
「私もあなたも男なのに…私はこんなに」
近藤と正反対な、女と見紛う程に美しい男。
近藤はそんな朧月の艶やかな髪を撫でながら、その手を白い頬に寄せる。
自然に朧月の目がゆっくりと閉じられ、それを知っている様に近藤の唇が朧月のそれに重なる。
軽く、深く、角度を変えながら何度も重なる唇。
何度も交わされる口付け。
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