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繚乱〜伍

後ろに退いた朧月の背中に誰かの足が当たる。
それを見上げた目に映ったのは、腕を体の前で組み、自分を見下ろしている東雲の笑顔だった。
「東雲姐さ」
「名代だってのに、ちゃんとお相手もしてない内から…お客様に失礼じゃないか」
笑顔を崩さずに東雲はそう言いながら目線を朧月に合わせる様にしゃがみ込む。
「…でも」
「桜花姐さんの招いたお客様だよ?あんたは、あたしの名代だけど、桜花姐さんの名代でもある」
あんたの都合なんて、知った事じゃないんだよ。
そう言い放つと、東雲はす、と朧月の耳元に顔を寄せる。
「それに、あんただって、本当は会いたかったんじゃないのかい?」
「姐さ」
朧月の次の句を聞く前に、東雲はにっこりと朧月と、その向こうにいる近藤に微笑む。
「しっかりおやり」
そう言うと、東雲は朧月の背中をどんと押し、部屋の中に朧月が入ったのを見定めてぴしゃりと襖を閉める。
当たり前だが、外で待っていた紅葉がまるで番人の様に襖の前に座り込む。
「後は頼んだよ、紅葉」
「はい、東雲姐さん」
もしも、朧月が部屋から出ようとした時には、紅葉が止める。
それが東雲が考えた最良の策だった。
紅葉なら朧月は無理矢理な事はしないし、他の誰よりも言う事を聞くからだ。
「さて、どうなるかねえ」
東雲はそう独りごちると、自分の客を待たせているのだろう、皐月に連れられて歩いて行く。
後に残された紅葉には、ただ、このまま朧月が部屋から出ず、出来る事ならまた以前の様に近藤を「主様」と呼ぶ事が出来る様に、祈りながらそこにいる事しか出来なかった。
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