繚乱〜伍
朧月を何の疑いもなく近藤の待つ部屋へ連れて行く。
紅葉の頭の中にはそればかりがぐるぐる回る。
いつもと変わらず結い上げる朧月の髪。
それを見て満足げにする朧月の顔を鏡越しに見ながら紅葉の胸は高鳴っていた。
その時。
外から「失礼致します」と声がかかり、現れたのは皐月だった。
「皐月?どうかしましたか?」
「東雲姐さんからの言伝をお伝えに参りました」
「東雲姐さんから…分かりました」
皐月を部屋に招き入れると、朧月は背を正す。
「お伝え致します」
皐月は真っ直ぐに朧月を見て口を開く。
「本日ご逗留のお客様なのですが、東雲姐さんの名代をお願いしたいとの事でございます」
「私が東雲姐さんの名代?」
「はい。最初は東雲姐さんが名代を言い使っておりましたが、姐さんに本客が入りまして。そこで朧月姐さんさえ良ければと」
「名代の交代、という事ですね…分かりました、お受け致しますと東雲姐さんにお伝えを」
かしこまりました、と皐月は頭を下げ、ちらりと紅葉に目をやってから部屋を出る。
実は既に朧月を近藤の元へ導く為の作戦は始まっているのだ。
最初から「近藤の所へ行け」では、頑なな朧月は決して動くまいと考えた東雲は「自分の代わり」という立場を設えた。
それならば相手が誰かを言わなくて良いし、責任感の強い朧月ならば断る事はしないはずだし、少なくとも部屋までは行くだろう。
部屋に入るか入らないかについてはまた別の手段を考えれば良い事だ。
「髪を直しますか?姐さん」
紅葉は高鳴る鼓動を悟られない様、細心の注意を払って朧月に話しかける。
それは上手く隠されているのだろう、朧月は特に何も言わず、部屋の段取りを聞いてくる様にと紅葉に笑った。
紅葉の頭の中にはそればかりがぐるぐる回る。
いつもと変わらず結い上げる朧月の髪。
それを見て満足げにする朧月の顔を鏡越しに見ながら紅葉の胸は高鳴っていた。
その時。
外から「失礼致します」と声がかかり、現れたのは皐月だった。
「皐月?どうかしましたか?」
「東雲姐さんからの言伝をお伝えに参りました」
「東雲姐さんから…分かりました」
皐月を部屋に招き入れると、朧月は背を正す。
「お伝え致します」
皐月は真っ直ぐに朧月を見て口を開く。
「本日ご逗留のお客様なのですが、東雲姐さんの名代をお願いしたいとの事でございます」
「私が東雲姐さんの名代?」
「はい。最初は東雲姐さんが名代を言い使っておりましたが、姐さんに本客が入りまして。そこで朧月姐さんさえ良ければと」
「名代の交代、という事ですね…分かりました、お受け致しますと東雲姐さんにお伝えを」
かしこまりました、と皐月は頭を下げ、ちらりと紅葉に目をやってから部屋を出る。
実は既に朧月を近藤の元へ導く為の作戦は始まっているのだ。
最初から「近藤の所へ行け」では、頑なな朧月は決して動くまいと考えた東雲は「自分の代わり」という立場を設えた。
それならば相手が誰かを言わなくて良いし、責任感の強い朧月ならば断る事はしないはずだし、少なくとも部屋までは行くだろう。
部屋に入るか入らないかについてはまた別の手段を考えれば良い事だ。
「髪を直しますか?姐さん」
紅葉は高鳴る鼓動を悟られない様、細心の注意を払って朧月に話しかける。
それは上手く隠されているのだろう、朧月は特に何も言わず、部屋の段取りを聞いてくる様にと紅葉に笑った。