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繚乱〜東雲

戸の前に座る桂の表情が引き締まるのを横目に、椿は部屋への戸を開く。
桂はそれに合わせて頭を下げる。それは幼い頃から客商売をしていたからこそ出来る所作だった。
「只今戻りました、花魁」
「お帰りなさい…まあ可愛いお連れだこと」
椿は桂と部屋に入り、目の前でゆったりと構える花魁に持ち帰った櫛や簪、反物の目録を並べる。目録だけでも相当な量だ。
「有り難う、椿。で、その可愛いお連れは?」
花魁の声に頭を下げたまま桂は口を開く。
「桂と申します」
「お顔を、見せて頂戴な」
桂は高鳴る鼓動を抑えながらゆっくりと頭を上げる。
そこにいたのは桂の想像通り、いや、それ以上の人物だった。
黒く艶のある黒曜石を思わせる美しく結われた日本髪。そこに挿される黄金色の簪や櫛は桂が見た事もない程の上等な鼈甲。
切れ長な目に差された紅色と唇の紅。
白磁の肌に香る香は艶めいたものに思える。
細い首を支える着物は名のある染めに違いないと桂でも分かる程。
ただ座っているだけなのに全身から「花魁」の品格が伝わる。
「桂…綺麗なお名前ね。でも廓では使えないわ…椿、何か考えてあるの?」
「いえ、まだ。この子を置くかどうかは花魁がお決めになる事でしたから」
「それもそうね。でもあなたが連れて帰る位の子でしょう?無碍に追い返したりはしないわ」
ふ、と花が咲く様に花魁が笑う。
桂がその表情に見惚れていた、その時。
花魁の指がす、と置かれていた膝置きから頬に移り、紅い唇が美しく笑う。
「…東雲」
手のひらを上に向け、人差し指だけで桂を指差して花魁が呟く。
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