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繚乱〜伍

桜花からの使いが帰った後、近藤はしばらく考え込んでいた。
行くと言ったのは良い。
だがいざ朧月に会ったとして、何を話せば良いのだろう。
「親にも言えない仕事…か」
確かにな、と思う。
親も兄も、自分は呉服屋で雇われていると信じて疑わないのだろうし、毎月送る仕送りがどうやって稼がれた金かなど知る訳も考える訳もない。
ふと、近藤は思考の方向を変える。
だったら。
今更だが、人に言える仕事をすれば良いのかもしれない。
それこそ道場の師範や、畑仕事。
選択肢は恐らく沢山あるはずだ。
兄や母の様に、自分が生まれ、育った環境とは違う世界へ進む。
「刀を捨てる事が、俺に出来るだろうか」
呟いた声には誰も答えなかったが、近藤の中にはほんの少し、それこそ砂よりも小さな大きさだったが、刀を持つ事に対する迷いが生まれていた。
しばらくは仕事もない。
少し本腰を入れて真一郎の手伝いをするのも、意識が変わって良いのかもしれなかった。


近藤が桜花を訪れる予定の日。
紅葉と東雲は落ち着かないながらもいつもと変わらない様に振る舞い、こっそりと近藤を迎える手筈を打ち合わせていた。
「東雲姐さん、もし朧月姐さんが嫌がったりしたらどうすれば」
「大丈夫、あたしに考えがあるから、あんたはとにかく旦那の部屋にあの子を連れて来ておくれ」
心配そうな紅葉の頭を撫で、朧月の支度をする様に告げると、東雲は深呼吸を一つ、よし、と呟いて自分も支度を始めるべく皐月を呼んだ。
東雲と紅葉、当たり前だが朧月と近藤、そして桜花にとっても長い一日になりそうな、そんな予感だけがあった。
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