繚乱〜伍
果たして東雲の送った文は無事近藤に届いていた。
だが、近藤はすぐに返事をしなかった。
勿論行きたくない訳ではない。
ただあの日、朧月に言われた言葉だけが頭の中に響く。
ああまで言わせて、どんな顔をして行けば良いと言うのだろうか。
近藤の考えを読んだ様に、手紙を運んできた男が口を開く。
「私は下働きですから多くは存じませんが…花魁には何か、お考えがある様で」
「…花代を桜花が立て替える辺りで、それは分かるが俺は…」
「そちらの文は東雲が書いた物、恐らくは東雲も、花魁から何か言い遣っているのでしょうな」
「東雲…そうか、東雲が」
東雲の存在が少しだけ気を楽にしたらしい近藤は、しばらく考えたが「明日伺おう」とだけを口にした。
当たり前だが、返す足で下男は明日の近藤の逗留の手筈を整え、桜花に戻るとそれをすかさず東雲に伝える。
「分かった、ご苦労さん」
東雲はそう言って満足げに笑うと、桜花に事の次第を伝え、桜花も「あなた、明日は頼みましたわよ?」と東雲に告げた。
明日、もしも朧月が近藤を避けた時、それでも朧月を近藤に会わせなくては意味がない。
東雲は桜花の部屋を出るとしばらく考えてから皐月と紅葉を呼び出した。
こういう小さな謀には禿の助けが必要だと、東雲はそう結論を出していたのだろう。
「…主様が」
東雲から事を聞いた紅葉は途端に嬉しさを表情に表す。
「あたしも花魁も、今の朧月を見ていられないんだよ…あの子は、ああして追いかけるほど旦那に入れ込んでるってのにね」
「朧月姐さんにも…色々あって…」
「分かってるよ紅葉。それを無理矢理聞こうってんじゃない、ただ、あんたには明日、朧月を旦那の所へ連れて行って欲しいだけなんだよ」
東雲は優しい声音で言う。
それが心からの言葉で、確かにそれ以上を東雲が聞かない事が分かるのだろう、紅葉は表情を引き締めて深く頷いた。
だが、近藤はすぐに返事をしなかった。
勿論行きたくない訳ではない。
ただあの日、朧月に言われた言葉だけが頭の中に響く。
ああまで言わせて、どんな顔をして行けば良いと言うのだろうか。
近藤の考えを読んだ様に、手紙を運んできた男が口を開く。
「私は下働きですから多くは存じませんが…花魁には何か、お考えがある様で」
「…花代を桜花が立て替える辺りで、それは分かるが俺は…」
「そちらの文は東雲が書いた物、恐らくは東雲も、花魁から何か言い遣っているのでしょうな」
「東雲…そうか、東雲が」
東雲の存在が少しだけ気を楽にしたらしい近藤は、しばらく考えたが「明日伺おう」とだけを口にした。
当たり前だが、返す足で下男は明日の近藤の逗留の手筈を整え、桜花に戻るとそれをすかさず東雲に伝える。
「分かった、ご苦労さん」
東雲はそう言って満足げに笑うと、桜花に事の次第を伝え、桜花も「あなた、明日は頼みましたわよ?」と東雲に告げた。
明日、もしも朧月が近藤を避けた時、それでも朧月を近藤に会わせなくては意味がない。
東雲は桜花の部屋を出るとしばらく考えてから皐月と紅葉を呼び出した。
こういう小さな謀には禿の助けが必要だと、東雲はそう結論を出していたのだろう。
「…主様が」
東雲から事を聞いた紅葉は途端に嬉しさを表情に表す。
「あたしも花魁も、今の朧月を見ていられないんだよ…あの子は、ああして追いかけるほど旦那に入れ込んでるってのにね」
「朧月姐さんにも…色々あって…」
「分かってるよ紅葉。それを無理矢理聞こうってんじゃない、ただ、あんたには明日、朧月を旦那の所へ連れて行って欲しいだけなんだよ」
東雲は優しい声音で言う。
それが心からの言葉で、確かにそれ以上を東雲が聞かない事が分かるのだろう、紅葉は表情を引き締めて深く頷いた。