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繚乱〜伍

「そう…そんな事がありましたの…」
朝の事を報告した番頭から呼ばれ、東雲は桜花の部屋にいた。
東雲は自分が見た事を桜花に漏れなく伝え、全て桜花の判断に任せるつもりだった。
「それで、朧月はどうしていて?」
「紅葉や、皆がどうにか声をかけているのですが、返事もなく部屋から一向に出ようとしなくて…花魁、あの子は…」
「分かっていますわ、東雲。わたくしに、考えがありますの…賭けではあるのだけれど、あなた、手伝って下さる?」
東雲に断るという選択肢はない。
「何を、すれば」
真っ直ぐ自分を見る東雲に、桜花が小さな声で指示を出すと、東雲は一瞬目を丸くしたが「かしこまりました」と即座に体を動かした。
桜花の案は確かに賭けだ。
だが、もしかしたらそれが正解なのかもしれない。
東雲は早足で部屋に戻ると、桜花に言われた通りの文面で書状を認め、急いで番頭に届ける様に告げる。
「姐さん、これは」
「四の五のお言いでないよ、花魁から言われたんだから、早く届けて、向こうの返事も聞いて、返事如何で手筈を整えておくれ」
番頭は少々難色を示しながらも「花魁」の一言に負け、東雲の文を懐に押し込んで見世を駆け出す。
東雲はそれを見送り、後は、ただ上手く行く様にと祈る事しかしなかった。
桜花の賭け。
それは「近藤を桜花に呼び、朧月を付かせる」事だったのだ。
「上手く行く保証はありませんわ。でも、あなたの話だと、わたくしにはあの子がその方を心から求めている様にしか見えませんの」
東雲の話を聞いた桜花はそう言って、東雲に協力を申し出た。
それは東雲もうっすらと思った事だったのだから、桜花の「賭け」に乗らない理由が無いのだ。
「…旦那が、来てくれないと駄目な賭け、なんですよ…」
東雲は自分の部屋の窓から大門に向いてそう呟いた。
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