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繚乱〜伍

椿の問いに、紅葉は札の事を口にしようとしたが、それは駄目だと押し留める。
二つに切れた札の事は、余計に近藤を見世から遠ざけるに違いない。
なぜなら、あの事件の下手人かもしれないのだから。
「…朧月姐さんは…ずっと、寂しそうです…笑っていても、ちっとも楽しそうじゃありません…だから」
紅葉はそうとだけ言うと、椿に頭を下げて部屋のある方へ歩いて行く。
きっと自分がどんな理由を付けても、朧月が望み、桜花が許さなければ近藤は見世へ入れない。
紅葉にはそれが分かっていた。
それでもどうにかしたかった。
作り物の笑顔ばかりを作る朧月を、これ以上見ているのは嫌だと思うから。
以前の、近藤といた時の、心からの笑顔。
それこそが紅葉の好きなもの。
ずっと見て来た、大好きなもの。
そんな笑顔を浮かべる朧月だからこそ手本にしたいと思う。
紅葉はその足で花魁、桜花の部屋のすぐ側まで行ったのだが、声をかけるにも何と言えば良いのかが分からずに、また朧月の側へと戻っていた。
朧月の様子は紅葉が部屋を出た時と少しも変わらない。
寧ろぼんやりしている様に見える。
そんな朧月に何も言わず、紅葉は時を過ごす。
何を話しても恐らく朧月の笑顔はあの日には戻らない。
戻す事が出来るただ一人を、どうすればまたここへ連れ戻す事が出来るだろう。
朧月が思うよりも沢山の事を紅葉は小さな体で、小さな頭の中で、一生懸命になって考えていた。
それは全て大事な太夫の為。
自分の目標である人の為。
何よりも自分の為。
誰も知らない間に紅葉は随分としっかりした、色子と言うよりもまるで見世を仕切る様な、そんな成長を見せていた。
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