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繚乱〜伍

それからしばらく。
季節は冬に変わる。
朝夕が肌寒く、昼の温度も下がる。
「洗濯物が乾くのが遅くなってきましたね」
髪を梳きながら紅葉が言う。
先日から紅葉や皐月には先達の色子達から選ばれた者が少しずつ、禿の仕事と並行して色子の作法を教え始めている。
それもあってか、少しだけ、紅葉が朧月を見る目が変わっている事に朧月は気付いていた。
「作法や所作は見て学ぶ」
どの仕事でも同じ事なのだが、特に自分が常に側にいる先達を手本にするものだ。
紅葉は朧月を。
皐月は東雲を。
かつて朧月がそうした様に。
「…本当に…すぐ寒くなりますね」
朧月はそう言って柔らかく笑う。
あの秋の日以来、近藤は桜花に近付いてもいない。
もしかしたら近付いているのかもしれないが、見世の中には入れない様になったままだ。
朧月に会う為に九重の若旦那、真一郎は相変わらず訪れるが誰も連れず一人だった。
朧月が無意識に手を触れる文机の中には、近藤と交わした札が未だきちんと仕舞われている。
背中からそれを見る紅葉には、文机に手をやる時の朧月の表情も見る事が出来る。
「姐さん、出来ました」
「有り難う…開門の声がかかるまでは何もする事はありませんから、少し好きにしておいで」
「はい」
紅葉は朧月に頭を下げ、茶の用意だけを手際よくしてから部屋を出る。
紅葉はその足で玄関へ向かう。
「紅葉、だから何度頼まれても無理なものは無理なんだよ」
「分かってます、でも」
番頭と話す紅葉の声。
それに割り込む様に、玄関の奥から椿の姿が現れる。
「太夫が、そう言って頼んでるんだから、あたし達にはどうにも出来ないよ、紅葉」
椿の言葉にしゅんとする紅葉の頭を撫でながら、椿は紅葉に目線を合わせてゆっくりと言う。
「良いかい、紅葉。お前がどれほどそのお人に来て欲しいと思っても、太夫の言がある。それを覆すのは、花魁の言しかないんだよ」
「じゃあ、桜花姐さんが良いと言ってくれたなら、また主様を呼べますか?」
「ああ。でも、そうしたとして、朧月は喜ぶかい?」
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