このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

繚乱〜伍

皐月の替わりに付いた禿を従えて仕事に向かう東雲の耳に、色子達の声が入る。
「朧月が贔屓のお客を見世に入れないでって頼んだらしいじゃないか」
「何があったかは知らないけど…おおかた、あの兄さんが女郎にでも懸想したんじゃないかい?」
「ここは吉原、だからね」
東雲は色子達に問いただしたい気持ちを堪えて廊下を歩く。
朧月の贔屓の客と言えば、近藤しか思い当たらない。
ようやく笑える様になった、そうさせてくれたあの人を、朧月から見世に入れないでと言い出す。
それには相当な理由があるはずだ。
だとすると。
「あの熱は、そのせいって事か」
小さく呟いた東雲は程なく辿り着いた座敷の前で座り込み、深呼吸を一つすると次の瞬間には仕事の顔になっていた。


その日から三日間、朧月は起き上がる事が出来なかった。
一日で体調を戻した紅葉が付きっきりで世話をして、駆け付けた医師も原因が分からないと告げた。
とにかく熱が下がればと置かれた薬のおかげなのか、紅葉と東雲の世話の賜物なのか、三日目に目を覚ました朧月は二日もすれば歩ける程に体力を戻していた。
「大丈夫ですか、姐さん」
桜花の中庭で散歩する朧月に紅葉が走り寄る。
「ええ…何だか、世話をかけてしまいましたね」
長い髪を後ろで纏めただけの朧月は柔らかく紅葉に微笑む。
紅葉は朧月の手を握ると、にっこりと笑いながら「戻りましょう」と朧月を導く。
仕事はまだ休ませて貰っているが、その代わりに仕入れの確認やら帳簿やらの仕事を言われているのだ。
ちなみに紅葉も朧月が戻るまでは台所を手伝っている。
これは紅葉が自分から言い出した事で、朧月が元の仕事に戻ったら自分も朧月と一緒に働くと台所の責任者にしっかり話を通している。
どうやら紅葉も日々成長している様だ。
まだまだ小さな紅葉の手を取りながら朧月は「色子の仕事に戻ったら、また宜しくお願いしますね」と笑う。
紅葉はそれに相変わらずの元気な笑顔で答えていた。
3/20ページ
スキ