繚乱〜伍
部屋に戻った朧月は言葉を選んで紅葉に事の次第を話して聞かせた。
人を殺めた事は伏せて、真っ当な手段で得た金ではない、と少しばかり語を濁しながら。
「では、もう主様はこちらへ来られないのですか、姐さん」
頬を、目の周りを真っ赤にして紅葉が言う。
「ええ…あなたはあの方が好きだから、辛いでしょうけど」
「…分かりました」
少し鼻声になりながら、大きな目を潤ませて紅葉が頷くと、朧月はそんな紅葉をぎゅうと抱き締める。
紅葉の気持ちは痛いほど分かる。
それはまさに近藤と話していた時の、もう来ないでくれと告げた時の気持ち。
近藤が追いかけて来ないのを見てから、九重屋に備えてある用水の陰で座り込んで泣いた、あの気持ちだ。
辛いとか、寂しいとか、悲しいとか、悔しいとか、言葉にはならないあの気持ち。
まるで胸ごと潰される様な痛みと、足元が崩れる様な目眩に似た感覚。
「ごめんなさい…紅葉」
朧月は胸の中で声を我慢して泣く紅葉の頭を撫でながら、また涙を溢れさせていた。
吉原が賑わう頃。
桜花では、東雲が慌てていた。
なかなか部屋から出て来ない朧月を気にして見に行ったのだが、部屋からは声がしない。
入るよ、と声をかけて開いた襖の奥には、畳の上に倒れ込んだ朧月がいた。
駆け寄って抱き上げると体が異常に熱い。
東雲は急いで皐月を呼び、氷水と手拭いを頼むと軽々と朧月を抱え上げて布団に運んだ。
皐月は水を運んだ足で紅葉を呼びに行ったのだが、紅葉まで熱を出している。
「全く、あの子達は…皐月、紅葉は任せるから、見世に朧月はお茶引きだって伝えておくれ」
「はい、姐さん」
皐月に椿か絹を呼んでくれと伝えてから、東雲は朧月に付き添った。
「あんた一体何があったんだい…」
呟いても朧月は答えない。
程なく椿が現れ、東雲は朧月を頼むと名残惜しそうに部屋を出る。
出来るなら自分が付いていたいのだが、太夫二人がお茶引き、つまり休みとなると、見世には痛手なのだ。
人を殺めた事は伏せて、真っ当な手段で得た金ではない、と少しばかり語を濁しながら。
「では、もう主様はこちらへ来られないのですか、姐さん」
頬を、目の周りを真っ赤にして紅葉が言う。
「ええ…あなたはあの方が好きだから、辛いでしょうけど」
「…分かりました」
少し鼻声になりながら、大きな目を潤ませて紅葉が頷くと、朧月はそんな紅葉をぎゅうと抱き締める。
紅葉の気持ちは痛いほど分かる。
それはまさに近藤と話していた時の、もう来ないでくれと告げた時の気持ち。
近藤が追いかけて来ないのを見てから、九重屋に備えてある用水の陰で座り込んで泣いた、あの気持ちだ。
辛いとか、寂しいとか、悲しいとか、悔しいとか、言葉にはならないあの気持ち。
まるで胸ごと潰される様な痛みと、足元が崩れる様な目眩に似た感覚。
「ごめんなさい…紅葉」
朧月は胸の中で声を我慢して泣く紅葉の頭を撫でながら、また涙を溢れさせていた。
吉原が賑わう頃。
桜花では、東雲が慌てていた。
なかなか部屋から出て来ない朧月を気にして見に行ったのだが、部屋からは声がしない。
入るよ、と声をかけて開いた襖の奥には、畳の上に倒れ込んだ朧月がいた。
駆け寄って抱き上げると体が異常に熱い。
東雲は急いで皐月を呼び、氷水と手拭いを頼むと軽々と朧月を抱え上げて布団に運んだ。
皐月は水を運んだ足で紅葉を呼びに行ったのだが、紅葉まで熱を出している。
「全く、あの子達は…皐月、紅葉は任せるから、見世に朧月はお茶引きだって伝えておくれ」
「はい、姐さん」
皐月に椿か絹を呼んでくれと伝えてから、東雲は朧月に付き添った。
「あんた一体何があったんだい…」
呟いても朧月は答えない。
程なく椿が現れ、東雲は朧月を頼むと名残惜しそうに部屋を出る。
出来るなら自分が付いていたいのだが、太夫二人がお茶引き、つまり休みとなると、見世には痛手なのだ。