繚乱〜伍
「どうしてそんな事を言い出すの?あなたの大事なお客様でしょう?」
仕入れを終えた朧月はその足ですぐに桜花に会いに行き、仕入れの話の後で、一も二もなく「近藤を金輪際桜花に入れないで欲しい」と頼み込んだ。
「理由も無しにあなたがそんな事を言う訳がないと思ってはいるのだけれど…あなたはそれで良いんですの?」
心配そうな桜花に、朧月ははっきりと言い切る。
「私が、もうあの方に買われたくないんです。ですから花魁、どうか」
頭を下げる朧月に、桜花は少しだけ寂しい顔をした後で、吸わない煙管を片手に言った。
「分かりましたわ。あなたがそこまで言うなら、その方には金輪際、桜花の敷居を跨ぐ事をさせません。皆にも伝えておきましょう」
けれど、と桜花は言葉を続ける。
「あなたは、本当にそれで良いのね?その方と会えなくて、良いのね、朧月」
失った笑顔が戻るほどに心を許した人なのに。
その人が目の前からいなくなる事が朧月にとってどういう事かを桜花は痛いほど分かっている。
もしかしたらまたこの子は笑わなくなるかも知れない。
本当ならこの申し出を受ける事をしっかりと考えなければならないのだが、朧月がこうまで言うのは相当な理由があるに違いない。
幼い頃から朧月を見てきた桜花だからこそ、それは朧月に対する確かな信頼だった。
「私が決めた事です」
「…わたくしが気にする事ではありませんのね…絹のお手伝い、有り難う。仕事まではゆっくりなさい」
「はい、花魁。失礼致します」
朧月が部屋を出ると、桜花は絹と椿を呼び出した。
「…という事ですの。皆に伝えて、決してその方を桜花に入れないで頂戴」
絹と椿は揃って「かしこまりました」と答える。
「それにしても」
二人が部屋を出た後、美しく飾られた吉原の通りに面した窓を眺めながら、桜花はぽそりと呟く。
「あの子…外で何があったのかしら…」
仕入れを終えた朧月はその足ですぐに桜花に会いに行き、仕入れの話の後で、一も二もなく「近藤を金輪際桜花に入れないで欲しい」と頼み込んだ。
「理由も無しにあなたがそんな事を言う訳がないと思ってはいるのだけれど…あなたはそれで良いんですの?」
心配そうな桜花に、朧月ははっきりと言い切る。
「私が、もうあの方に買われたくないんです。ですから花魁、どうか」
頭を下げる朧月に、桜花は少しだけ寂しい顔をした後で、吸わない煙管を片手に言った。
「分かりましたわ。あなたがそこまで言うなら、その方には金輪際、桜花の敷居を跨ぐ事をさせません。皆にも伝えておきましょう」
けれど、と桜花は言葉を続ける。
「あなたは、本当にそれで良いのね?その方と会えなくて、良いのね、朧月」
失った笑顔が戻るほどに心を許した人なのに。
その人が目の前からいなくなる事が朧月にとってどういう事かを桜花は痛いほど分かっている。
もしかしたらまたこの子は笑わなくなるかも知れない。
本当ならこの申し出を受ける事をしっかりと考えなければならないのだが、朧月がこうまで言うのは相当な理由があるに違いない。
幼い頃から朧月を見てきた桜花だからこそ、それは朧月に対する確かな信頼だった。
「私が決めた事です」
「…わたくしが気にする事ではありませんのね…絹のお手伝い、有り難う。仕事まではゆっくりなさい」
「はい、花魁。失礼致します」
朧月が部屋を出ると、桜花は絹と椿を呼び出した。
「…という事ですの。皆に伝えて、決してその方を桜花に入れないで頂戴」
絹と椿は揃って「かしこまりました」と答える。
「それにしても」
二人が部屋を出た後、美しく飾られた吉原の通りに面した窓を眺めながら、桜花はぽそりと呟く。
「あの子…外で何があったのかしら…」