繚乱〜肆
「朧月、俺は」
「花代の為に人を斬る事を、悔やまなかったんですか…一度も」
朧月も言葉を探しながら口にする。
もう何を言えば良いのか、はっきりと分からないのだ。
「常に悔やむばかりだ…俺も、兄の様に刀無しで生きられたらとな」
「ならば止める事も出来たでしょう?なぜ続けるんですか…そんな事で金子を得る事など、誰にも…親にも言えない事なのに」
「それはお前もだろう、朧月」
以外な返答。
朧月の顔が不思議そうに変わる。
「お前とて、廓の仕事を親には言えまい。逃げ出したくなる事もあるだろう。それでもお前は桜花にいる。同じ事だ」
「私の親は」
朧月はもう一度近藤から手を離す。
今度は捕まえられる事なく、朧月は両手を胸にあてる。
「私がどうなるかを知った上で私を桜花へ入れたんです…私が桜花で男に買われている事も、その金子を送っている事も、親はおろか兄弟全員が知っています」
それに、と朧月は近藤を涙の止まった目で真っ直ぐに見る。
「私は桜花から逃げ出したいなどと考えた事はありません。桜花は、私の誇りであり、私の家。同じなどではありません」
朧月はすいと立ち上がると、近藤に向き直り「太夫」の顔で、声で近藤に言う。
「近藤様、もう二度と、金輪際、桜花へは来ないで下さいませ」
「な、何を」
「私は、人の命を奪ってまで、そうまでしてあなたに買われたくありません」
「朧月」
近藤の声は歩き去る朧月を振り向かせる事も出来ず、その目はただそのすらりとした背中を見送り、その体は縁側から動く事すら出来ないでいた。
ただ、最後に見えた寂しい朧月の顔と、一筋流れた涙だけが近藤の胸に焼き付いた。
「花代の為に人を斬る事を、悔やまなかったんですか…一度も」
朧月も言葉を探しながら口にする。
もう何を言えば良いのか、はっきりと分からないのだ。
「常に悔やむばかりだ…俺も、兄の様に刀無しで生きられたらとな」
「ならば止める事も出来たでしょう?なぜ続けるんですか…そんな事で金子を得る事など、誰にも…親にも言えない事なのに」
「それはお前もだろう、朧月」
以外な返答。
朧月の顔が不思議そうに変わる。
「お前とて、廓の仕事を親には言えまい。逃げ出したくなる事もあるだろう。それでもお前は桜花にいる。同じ事だ」
「私の親は」
朧月はもう一度近藤から手を離す。
今度は捕まえられる事なく、朧月は両手を胸にあてる。
「私がどうなるかを知った上で私を桜花へ入れたんです…私が桜花で男に買われている事も、その金子を送っている事も、親はおろか兄弟全員が知っています」
それに、と朧月は近藤を涙の止まった目で真っ直ぐに見る。
「私は桜花から逃げ出したいなどと考えた事はありません。桜花は、私の誇りであり、私の家。同じなどではありません」
朧月はすいと立ち上がると、近藤に向き直り「太夫」の顔で、声で近藤に言う。
「近藤様、もう二度と、金輪際、桜花へは来ないで下さいませ」
「な、何を」
「私は、人の命を奪ってまで、そうまでしてあなたに買われたくありません」
「朧月」
近藤の声は歩き去る朧月を振り向かせる事も出来ず、その目はただそのすらりとした背中を見送り、その体は縁側から動く事すら出来ないでいた。
ただ、最後に見えた寂しい朧月の顔と、一筋流れた涙だけが近藤の胸に焼き付いた。